因縁の結末
一方で、エテコー団の三人は、一般市民を守りながら戦っていた。数多の霊獣を相手にしている彼らは、酷く息を切らしかけている有り様だ。それでも、彼らに退路などない。巧みな体術を繰り出しつつ、ミルシーたちはあの少女たちのことを頭に思い浮かべる。
「奴らとの決着をつけるのは、ワガハイたちであぁる!」
「アタクシたちも、負けられませんわ!」
「ゴンゾウ! オミャーの野望は、オイラたちが、そしてリリカたちが打ち破る!」
一体、また一体と、霊獣は次々と姿を現していく。標的に囲まれ、傷つけられ、何度倒れても、ミルシーたちは立ち上がり続ける。この時、彼らはかつてない覚悟を決めていた。緊張感の漂う闘争の中で、三人は声を張り上げる。
「頑張るのであぁる! リリカ!」
「アナタならできますわ! リリカさん!」
「リリカ! オミャーの力を見せてやれ!」
彼らの叫び声は、曇天の空に反響した。
この時、マザー・セラフの前では、リリカの身に走っていたノイズが収まっていた。その瞬間、ヒロトとカムイは絶望感を覚えていた。
「ま、まさか……」
「そんな……!」
不安気な眼差しの向けられている先で、リリカはよろめく。それはまさに、彼女がファントムに取り憑かれた瞬間にも見て取れた。しかしリリカは、強気な笑みを浮かべる。
「案ずるな。オレは、ファントムなんかに負けねぇ!」
直後、その場は眩い光に包まれた。強風が渦を巻き、衝撃波がヒロトたちの髪をなびかせる。そして砂煙が収まった時、そこには悠然と構えるリリカの姿があった。彼女は血の混じった唾を吐き捨て、ヒロトたちに訊ねる。
「どうだ? オレ、カッコイイだろ?」
――いつもの曲乃リリカだ。彼女はファントムに取り憑かれることなく、マザー・セラフ魔術に抗えたのだ。当然、それはゴンゾウの望んでいたことではない。
「何故だ? 何故、君も耐え抜いた?」
「オレ一人の気持ちだけじゃ、オレは負けていたかも知れねぇ。だけど、オレはもう一人じゃねぇ。オレを想う連中がいる限り、オレは絶対に負けられねぇんだよ!」
「……くだらんな。所詮は、群れることに依存した弱者の戯言だ!」
両者の間に、緊迫した空気が立ち込めた。二人はじりじりと間合いを詰めつつ、互いを睨み合っている。ほんの一瞬でも隙を許せば、命は無い。ゴンゾウは杖を振り上げ、霊獣を生み出そうとした。そんな彼の動きを読んでいたのは、カムイだ。五感の超越。魔術によるゼロ秒の感知。電気信号を流すのに要する時間さえも克服した彼女には、宿敵の右腕を拘束することができた。
「なっ……!」
ゴンゾウが驚いたのも束の間、今度はヒロトが飛び込んできた。ヒロトは彼の左腕を押さえつけ、隙を作り出す。
「い、今だ! リリカ! やれ!」
その迫真の声には、数多の感情がこもっていた。彼も、カムイも、今までの悲劇的な記憶を、頭の中で反芻していた。この隙を逃せば、彼らの宿敵を討つ機会を失うこととなるだろう。
「終わりだ! ゴンゾウ!」
リリカはロケットランチャ―を生み出し、咄嗟に発砲した。ロケット弾は標的の胸に着弾し、凄まじい爆発を起こす。この一撃をまともに食らったゴンゾウは、眼前の霊媒師を睨みつけながら崩れ落ちた。
――リリカたちの勝利だ。
この期に及んでもなお、リリカは殺生を拒む。
「さぁ、全てを話せ。命までは奪わねぇからよ」
どんな悪人が相手でも、彼女は命を奪わない。それは紛れもなく、彼女自身の抱く正義感だった。
妙なことが起きたのは、まさにそんな時である。
突如、ゴンゾウの周囲に魔法陣が浮かび上がり、彼の身にノイズが走り始めた。この瞬間ばかりは、彼自身も困惑している様子だった。
「ま、待て! あの魔術は、私には効かないようにプロンプトを組んだはずだ! 私が、この私が……」
何かを言い切る前に、彼はその身から瘴気を解き放った。




