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香月サダメ

 死闘を経たヒロトとカムイは、それぞれの宿敵を連行して屋敷の庭に移動した。これから彼らは、ヒズミにまつわる情報を聞き出さなければならない。しかし二人には、一つ心配事がある。

「リ、リリカの奴は、無事だろうか……」

「無事だといいですね。でも、リリカさんなら大丈夫だと思います。そう思いたいです」

 二人の知る限り、選民会の幹部は強い。リリカの無事を確認するまでは、ヒロトたちは安心できないのだ。


 その時である。


「よっ。待たせたな」

 その場に、サダメと手をつないだリリカが現れた。その光景に目を疑い、ヒロトたちは二度見する。

「な、なんで、手を、握っているんだ?」

「僕たちの知らないところで、一体何があったんですか」

 この二人が困惑したのも無理はない。彼らの知るところのリリカは、サダメと不仲だったはずだ。そして何より、サダメは満更でもなさそうな表情をしている。その事実もまた、ヒロトたちを混乱させるには十分なものであった。

「ウチらは、友達になったもんね」

「まぁ、そんなわけだからさ。サダメ……ヒズミの正体について教えてくれ」

「いや、それは無理だね」

 和解を経てもなお、サダメは真実を明かしてはくれなかった。当然、リリカは不服そうな顔をする。

「なんでだよ。アンタ、選民会に未練でもあるのか?」

 仮にも、彼女の目の前の少女は、選民会の幹部を務めていた身の上だ。そんなサダメが情報を出し惜しみすれば、邪推されるのも無理はない話である。しかし彼女とて、選民会のために口を閉ざしているわけではない。

「真実を知るほどに、面倒なことに巻き込まれるんだよ? ウチは……今となっては、アンタに死んで欲しくないし、アンタに失わせたくもないからさ」

 そう語ったサダメは、少し儚げな顔をしていた。彼女が情報を明かさないのは、他ならぬリリカたちのためであった。


 無論、ここまで来たからには、リリカも手ぶらで帰るわけにはいかない。

「だったら、他の幹部に口を割らせるだけだ。悪いな、サダメ。オレには、命を危険に晒してでも成し遂げてぇことがある。つぅわけで、アンタらにはヒズミに関する全てを吐いてもらうぞ」

 その場には、緊迫した空気が立ち込めた。もっとも、その空気を噛みしめているのは、リリカ一行とサダメだけである。マヒトとシゲルは、まるで動揺していない様子だ。一先ず、マヒトは口を挟むことにする。

「ちょっと待て」

 この時も、彼はいつものように真顔だった。彼に対し、リリカは怒りの籠った眼差しを向ける。

「……なんだ? 今更アンタを許す気はねぇぞ?」

「いや、チンポジがズレた」

「死ね」

 相も変わらず、マヒトはマイペースだった。そんな彼に対するリリカの一言もまた、妥当なものであると言える。その傍らでは、サダメが苦笑いを浮かべている。その傍らで、シゲルはリリカの言動を注意する。

「軽率に『死ね』なんて言うべきじゃないよ。少しは相手の気持ちも考えようよ」

 この少年もまた、いつも通りの佇まいであった。


 その直後のことだ。


 地面からクジラ型の霊獣が現れ、マヒトとシゲルを捕食した。目を疑うリリカに対し、サダメは言う。

戒場(かいば)ゴンゾウが、ウチらを始末する気だ! 逃げて、リリカ!」

 当然、先程の戦闘で負傷しているサダメは、とても全力を発揮できる状態ではない。それでも彼女は、手元に骨の刀を生み出しながら身構えていた。危機を察したリリカは、声を張り上げる。

「アンタも一緒に逃げるんだよ、サダメ!」

 咄嗟の判断により、彼女は右手に太刀を作り出した。そんな彼女を突き飛ばし、サダメは微笑む。その笑みは、今までのような邪悪なものではなかった。リリカは間一髪のところで死を免れたが、サダメは眼前から迫る霊獣に捕食された。

「サダメ!」

 屋敷の庭に、リリカの悲痛な叫びがこだました。

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