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反応速度

 一方、二階へと駆け上がったリリカとカムイの前には、一人の少年が待ち受けていた。

「どうしてきみたちは、選民会の邪魔をするの? ぼくたちと和解さえすれば、きみたちも選民になれるのに」

――生原(いくはら)シゲルだ。ここで臨戦態勢の構えを取るのは、カムイである。

「リリカさん。ここは僕が引き受けます。先に行ってください!」

 あくまでも、シゲルと因縁があるのは彼女である。リリカは深くうなずき、その場を任せる。

「オッケーだ。アンタを信じるよ、カムイ」

 そう言い残した彼女は、広間を走り抜けていった。この時、シゲルは彼女を狙撃しようとした。そんな彼の背に切り傷を刻んだのは、カムイである。

「今までのようにはいきませんよ」

 この一撃は、本当に一瞬の出来事であった。いつもの俊敏な動きはさることながら、彼女はまるで標的の動きを読んでいたかのようだった。

「おっと、妙に速いね。それを正しいことに活かせば、もっと素晴らしいんだけどね」

「僕にとっての正義は、あなたがたを倒すことです。しかし今回は、他の目的があります」

「他の目的……?」

 両者ともに、互いを睨み合っている。ほんの一瞬でも隙が生じれば、どちらかが酷く負傷することとなるだろう。そんな中で先に動いたのは、カムイである。シゲルは彼女の斬撃をかわそうとしたが、頬に傷を負ってしまう。何やら彼女は、以前にも増して反射神経が優れている様子だ。否、正確に言うならば、これは生物的な反射神経ではない。して、シゲルはその正体を見破っている。

「おやおや、きみの魔術も強くなったものだね。生身の人間が刺激に反応するには、神経細胞に電気信号を流すための時間を要する。しかしきみは、魔術によって物事を感知している分、そのラグを無視することができるみたいだ」

 これがあの反応速度の仕組みだ。カムイは緊張感を噛みしめつつ、じりじりと間合いを詰めていく。

「正解です。僕の五感は、電気信号を介さずとも成立します。それで、あなたに聞いておきたいことがあるのですが……」

「何?」

「ヒズミさんの正体について、教えてください」

 あの少年の正体を探ること――それが本来の目的だ。無論、シゲルはそう簡単に口を割ろうとはしない。

「それを教えることはできないよ。でも、ぼくには黙秘権があるんだから、仕方ないよね」

 黙秘権を主張した彼は、凄まじい火力の光線を放った。その動きを読んでいたカムイは、瞬時に大剣を振り降ろした。その刀身は光線を受け止め、火花を散らしている。この一撃を振り払えば、彼女には勝機があるだろう。しかし、彼女はじわじわと退けられている有り様である。

「ならば、力ずくで聞き出すしかありませんね……!」

「無駄だよ。だって、ぼくには情報を吐くメリットがないんだもん。ぼくが情報を吐いたところで、きみがぼくたちを許してくれるわけじゃないんでしょ?」

「ええ、許しませんよ。当たり前じゃないですか!」

 全力を籠め、カムイは大剣を振るった。その勢いにより、光線が跳ね返される。とてつもない火力の光線を一身に浴びたシゲルは、一瞬ほど隙を許してしまう。当然、その好機を逃すカムイではない。彼女は閃光のように駆け出し、シゲルのわき腹に深い切り傷を刻んだ。唖然とした顔で崩れ落ち、シゲルは呟く。

「真実を知るごとにキレるくせに、何故この人たちは知りたがるんだろう」

 決して、彼は皮肉を言ったわけではない。その言動には、微塵も悪意が含まれていない。やはりこの少年には、他者の心を理解することが困難らしい。

「怒るために知りたいわけではありません。知らなければならず、怒らなければならない――ただ、それだけの話です」

 そう切り返したカムイは、冷ややかな眼差しをしていた。

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