家族の無念
翌日、ギルド本庁には満身創痍のリリカたちが集結した。結局、三人は塔を破壊するに至らなかった。そればかりか、彼女たち全員が、選民会に惨敗して帰ってきたのだ。当然ながら、彼女たちは絶望感を噛みしめている。
「まるで、アイツに歯が立たなかった」
「お、俺も……」
「本当に、手を引いたほうがいいんでしょうかね……僕たち……」
上には上がいる。この三人の力を束ねたところで、あの組織には敵わないだろう。その上、先日死闘を繰り広げたリリカたちは、満身創痍の有り様だ。
そこに姿を現すのは、水晶玉のようなものを持った一人の少年だ。
「諦めてもらっては困る。キミたちの力が必要だからね」
――ヒズミの登場だ。彼の持つ水晶玉が発光するや否や、リリカたちの体は無傷の状態にまで回復した。普段使っている魔術だけではなく、この少年は他の魔術も使えるらしい。しかし彼の行動原理は、依然として謎に満ち溢れている。そこでリリカは、彼の真意を問うことにする。
「なんでまた、オレたちを助けたんだ?」
「キミたちに協力して欲しいことがあるからさ」
「一体、何に協力すればいい?」
彼女の知る限り、ヒズミは並外れた強さを誇る霊媒師だ。そんな彼が直々にする頼み事は、おそらく並大抵のものではないだろう。さっそく、ヒズミは話の本題に移る。
「……選民会はボクの正体について、何か知っている様子だ。だけど彼らは、ボクの存在を警戒している。だからボクは、キミたちに暴いて欲しいんだ。ボクの出生が、連中とどう関わっているのか」
確かに、あの組織は彼のことを警戒している。ゴンゾウたちに口を割らせることは、決して簡単なことではないだろう。ましてや、連中が彼との戦闘を回避しているのであればなおのことだ。無論、その頼みを引き受けることは、リリカにとっても簡単なことではない。
「言っておくが、アイツらはオレたちの手に負える相手じゃねぇ」
そう呟いた彼女は、陰りのある表情でうつむいていた。全ての元凶にして最大の宿敵である選民会に、彼女たちはまるで報いることができていない。リリカの横で、ヒロトとカムイも唇を噛みしめるばかりであった。
しかしヒズミは言う。
「それはどうかな? 魔術の強さは心の強さだ。そしてキミたちには、選民会に勝てる理由がある」
何やら彼は、リリカ一行に勝機があると睨んでいる様子だった。更に、彼にはその理由もあるらしい。
「なんだ、それは」
「教えてください」
思わぬ希望を前に、ヒロトとカムイは食い気味だった。そしてリリカもまた、怪訝そうに顔を上げる。そんな彼女たちに微笑みかけ、ヒズミは発破をかける。
「キミたち三人は、家族なんだろう? それは決して、替えが利くものではない。自分一人のことであれば、諦めれば片付くかも知れないが、キミたちは家族の無念も背負っている。自分一人の痛みだと思って納得してはいけないんだ」
彼の言葉は、三人の心に火をつけた。リリカは迷いを捨て、戦うことを選ぶ。
「確かに、そうだな……」
「報いたいだろう? 選民会に」
「ああ、報いたい。いや、報いる!」
これで話は決まった。彼女の両脇で、ヒロトとカムイもうなずいた。その二人とフィストバンプを交わし、リリカは強気な笑みを見せる。その傍らで、ヒズミは安堵のため息をついていた。
「……それでいい」
そう言い残した彼は、すぐにその場を後にした。
それからリリカは二人の仲間を連れ、あの漆黒の屋敷へと赴いた。エントランスで三人を待ち受けていたのは、マヒトだった。そこでヒロトは、リリカたちに指示を出す。
「こ、ここは、俺が引き受ける。さ、先に、行け!」
彼には、眼前の男との因縁がある。リリカとカムイは深くうなずき、屋敷の廊下を駆け抜けていった。




