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無自覚な挑発

 その頃、南の塔では、カムイがファントムを全滅させていた。彼女は必死に眼前の塔を切りつけていくが、壁は瞬く間に再生してしまう。いくら斬撃を加えたところで、塔を破壊することはままならないだろう。


 そんな彼女の前に現れたのは、もちろんシゲルだ。

「また会ったね。どうしてきみは、いつも余裕がなさそうなの?」

 それが彼の第一声だった。傍から見れば、カムイが必死にならざるを得ないのは当然のことだ。彼女は数多の試練を課せられ、そして戦ってきた。そんな彼女の想いも、この少年からすれば理解の及ばないものである。


 彼の無神経な発言に対し、カムイは憤る。

「僕はあなたとは違うんです! あなたには理解できないと思いますが、僕の生きる道筋は険しいんですよ!」

「妥協すれば楽になれるのに、きみはそうしない。無念を晴らすことを諦めないから、きみは苦しんでいる。それって、きみが悪いんじゃないかな?」

「僕から故郷と両親を奪ったあなたがたに……そんなことを言われる筋合いはありません!」

 そう叫んだ時、彼女は無意識に飛び出していた。当然、彼女の腹部は、眩い光線によって貫かれてしまう。この一撃で後方へと飛ばされたカムイは、宙で体勢を整えて着地する。直後、彼女の眼前には、もう一発の光線が迫った。

「……!」

 咄嗟の判断により、カムイは大剣を盾にした。一先ず、彼女はこの一発をしのいだが、相手はいくらでも光線を撃つことができる強敵だ。

「痛いでしょ? 全部、きみが意地を張っているのが悪いんだよ? 今すぐでもぼくに謝って、選民会に手出しするのをやめればいいのに」

「謝りませんよ。僕には、あなたがたに謝る理由なんかないんです!」

「だったら、きみはもっと痛い目を見ることになるね。きみが戦うことを選んだ以上は、きみの痛みはきみ自身のせいだよ」

 いつ何時も、シゲルは理不尽な少年だ。彼の発する言葉の一つ一つが、的確にカムイの逆鱗に触れていく。して、この少年にはその自覚などない。その事実もまた、カムイの神経を更に刺激していくのだ。

「全部、あなたがたのせいじゃないですか!」

 叫び声をあげた彼女は、瞬時に間合いを詰めた。彼女は一心不乱に剣術を発揮するが、その斬撃は全て軽々とかわされてしまう。その上、シゲルの放つ光線は、的確に彼女の身を襲っていくのだ。


 依然として、彼はカムイの心を揺さぶり続ける。

「なんでも人のせいにするのはよくないと思う。それもきみが苦しい一因だよね。人のせいにして怒ることしかしないから、きみは幸せになれないんだよ」

「黙ってください! 選民会は……あなたがたは! 霊獣を生み出し、災害を起こし、挙句の果てに多くの人々から主体性を奪ったじゃないですか! その罪を認めず、僕を責め立てるなんて、正気じゃありません!」

「で、それがどうしたの? ぼくたちがどんなことをしていようと、きみが怒ってもいい理由にはならないよね? 怒っても、何も生まれないよ? いいことなんて何もないよ? 落ち着いたほうがいいよ?」

 その無自覚な挑発は、絶妙に相手の怒りを引き出すものであった。さりとて、彼の言い分も完全に間違っているわけではないだろう。現に、ここで怒りに身を任せれば、カムイは戦死を免れない。


 やがて全身に深い傷を負った彼女は、撤退を選ばざるを得なくなった。眼前の少年を睨みつけ、カムイは言う。

「次こそは……必ず報います。あなたに……そして、選民会に!」

 結局、彼女がシゲルを倒すことは叶わなかった。その場から走り去る彼女の背を前に、シゲルは手を振る。

「またね、カムイ。ただ、報いるなんて言葉で濁してぼくたちに八つ当たりするのはやめて欲しいかなぁ」

 相変わらず、この少年の倫理観は異常であった。

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