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思い通り

 一方、西の塔では、ヒロトがファントムを殲滅させていた。当然、彼も塔の破壊を試みるが、塔は瞬時に再生してしまう。そんな彼の前に姿を現したのは、選民会の幹部の一人――竜胆(りんどう)マヒトだ。

「俺様は今、猛烈に誰かを殴り続けたい気分だ。そんな時に、ちょうどボスから指令が下った。だからとりあえずは、お前でいい」

 相も変わらず、彼は自己中心的な性格だった。さっそく、彼は自らの拳を鋼鉄に変え、それをヒロトに叩きつけようとする。その拳を受け止めたヒロトは、闘争心に満ち溢れた目をしていた。

「お、お前は、何故、せ、選民会に、属しているんだ! た、他人の主体性なんか、お、お前には、どうでもいいだろ!」

「他人の主体性など邪魔だろう。俺様を満たさないことは、俺様を害していることと同じだ。俺様を満たせないのであれば、存在などするな!」

「あ、相変わらず、めちゃくちゃなことを、い、言いやがる……」

 眼前の男とは、やはり通じ合えない――彼は改めてそう思った。話が通じないとなれば、残された道はただ一つだ。

「だ、だったら、お、お前を、倒すしかない!」

 覚悟を決めたヒロトは、マヒトの拳を受け止めていた掌を爆発させた。しかし鋼鉄の肉体を持つマヒトには、爆炎がまるで通用していない。そこで彼の手首をひねり、ヒロトは隙を作ろうとした。直後、ヒロトの足元は、鋼の脚による蹴りで崩されてしまう。そして彼の鳩尾には、強烈な肘打ちが炸裂する。その一撃で吐血したヒロトは、必死にその身を奮い立たせた。彼は何発ものラッシュを繰り出し、辺りを爆炎に包み込んでいく。無論、眼前の標的の身には、一切の傷が刻まれていない。

「お前は俺様を倒せない。何故なら、俺様は倒されたくないからだ」

「な、なんでも、かんでも……思い通りに、なると思うな!」

「思い通りに『なる』か否かは問題じゃない。俺様は、全てを思い通りに『する』からな」

 依然として、この男に常識は通用しない。竜胆マヒトという男は、ことごとく自分軸だけで生きている人間だ。厄介なことに、その利己的な人間が、凄まじい戦闘能力を有しているのだ。彼は再び、ヒロトの腹にアッパーカットを繰り出した。宙に放られたヒロトは、そのまま地面に叩きつけられた。震える両腕で上体を起こし、彼は前方へと飛び出す。がむしゃらに間合いを詰めた彼だったが、今度は顔面を殴られてしまう。それでも立ち上がったヒロトは、もはや肩で息をしている有り様だった。

「ゼェ……ゼェ……俺は、せ、選民会を、潰さなければ、ならない! 立ち上がることを、やめたら、俺は、け、決着をつける! 清算……しなければならないんだ! 俺の苦しんできた……全てを!」

「そんなことはどうでもいい。俺様の人生に影響のないことは、存在していないのと同じだ。お前の痛みも、存在しない」

「だったら、お、お前の人生に、刻み込んでやる! お、俺という、存在を!」

 それから二人は、激しく殴り合った。ヒロトだけが血飛沫を散らす中、マヒトはずっと無傷のままだ。少なくとも、今のヒロトでは、眼前の強敵を討つことなどままならない。そんな中、彼はリリカとカムイの顔を思い浮かべた。彼には失ってはならないものがあり、そして彼自身の命も失われるべきではない。

「……だが、きょ、今日のところは、ここまでにする。お、俺が、生きて帰らないと! アイツらは、また失うことになるからだ!」

 そう言い残したヒロトは、周囲に激しい爆発を起こした。辺りを包み込む煙に身を隠し、ヒロトは命からがら逃げだした。


 その場に残されたマヒトは、少しばかり不服そうである。

「殴り足りなかった。俺様を満足させない時点で、アイツは存在するべきではない」

 そう言い切った彼は、深いため息をついた。

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