路地裏
その日の夜、ゴンゾウはとある路地裏へと赴いた。この時、彼はとある三人組に用があった。
「一体、ワガハイに何を望んでいるのであるか?」
「用件を述べてもらいますわ」
「オイラたちに、どんな用があるんだ?」
口々に質問した三人は、怪訝な顔をしていた。その表情は、猜疑心も帯びている。すでにリリカから話を聞いている彼らは、眼前の老人のことを信用していない。しかしミルシーたちは、完全に彼女の味方をしているわけでもない。ゴンゾウはそれを理解していた。さっそく、彼はエテコー団との交渉を始める。
「君たちは曲乃リリカの指輪を狙っているそうだね?」
「もちろんであぁる! あの指輪さえあれば、武器屋として稼いでいくことができるのであぁる!」
「……では、君たちの『トリガー』を私に預けてみないかね? リリカとの交渉に使えると思うのだよ」
おそらく、この男は妙なことを企んでいる。その不穏な空気を感じ取り、キクヒュアとユウセイは結論を急ぐ。
「どんな交渉ですの?」
「言っておくけど、オイラたちのトリガーでは、リリカを倒すのは難しいぞ! オイラたちの魔術は、すでに攻略されているんだから!」
エテコー団は嫌というほど知っている。彼らの力では、リリカ一行には遠く及ばない。されどゴンゾウには、冴えた考えがある。
「リリカは仲間想いだ。同時に、奴の仲間は二人とも、トラウマを抱えている。ヒロトには飛び降り自殺の幻覚を見せ、カムイには村が滅びた日の惨劇を見せ、そして二人を落ち着かせられぬよう、リリカの口を閉ざすのだ」
それはミルシーたちからしてみれば、盲点だった。もっとも、この戦術を思いついたところで、彼らは決してそれを実行には移さないだろう。
「なっ……なぬ!」
当然のように、ミルシーは嫌悪感を示した。そんな彼に構うことなく、ゴンゾウは話を続ける。
「そして私が指輪を明け渡すように要求すれば、リリカは二人のために話に応じるだろう。そしたら、君たちに指輪をやろう」
仲間を人質に取れば、速やかに指輪を奪うことができる――それは確かに速やかで合理的な考えだ。しかしエテコー団は、そんな話に応じるような輩ではない。
「ワガハイたちの答えは決まっているのであぁる! キミの話には乗らないのであぁる!」
「アタクシも乗りませんわ!」
「オイラも乗らない!」
それが彼らの答えだった。ゴンゾウは呆れたようなため息をつき、依然として説得を試みる。
「何故だね? 君たちは、あの指輪をずっと欲してきたはずだ」
「人のつらい過去は、決して弄んでいいものではないのであぁる! キミにはわからないのであぁる! ワガハイたちが、エテコー団が、何をもって結成されたのかを!」
「何をもって結成されたのだね?」
そう訊ねた彼は、醜悪な雰囲気を醸していた。ミルシーは肩を震わせ、眼前の老人を睨みつける。その鋭い眼光は、怒りを宿していた。彼は深く息を吸い、それから大声を張り上げる。
「過去の痛み……それがワガハイたちの全てであぁる!」
何やらエテコー団の三人には、何らかの壮絶な過去があるらしい。もっとも、ゴンゾウはそれを気にかけるような男ではない。
「……君たちは過去の痛みを背負っているのではない。過去の痛みから逃れられないだけだ。だが私の目指す世界でなら、君たちは自由になれる」
相も変わらず、この男は「人間らしく在ること」を軽んじていた。当然、その言動は、更なる怒りを買うこととなる。
「もちろん、なるべく傷なんか負いたくないのであぁる! それでも、すでに負った傷を蔑ろにして生きることは、それ以上に望ましくないのであぁる!」
「それはどういうことだね?」
「痛みも、喜びも! 歩んできた過去の全てが、今の『自分』を象っているのであぁる!」
そんな信条を口にしたミルシーは、自らの過去を語り始めた。




