異空間
一方、ゴンゾウは三人の部下と共に、宇宙のような空間にいた。妙なことに、彼らは浮遊しておらず、白い床の上に立っている。それでいて、彼らは音を立てることも可能だ。この状況に疑問を抱くのは、マヒトである。
「なんだ? この空間は」
無論、彼らがここに集められたことには理由がある。それを語るのは、ゴンゾウだ。
「地上で会議をすると、筆談でしか話せなくなる。だが、この異空間で話す分には、カムイに話を聞かれる心配はない」
元より、四人は筆談を用いて会議をしていたにも関わらず、あの漆黒の屋敷をカムイに発見された身だ。そんな彼らが異空間に集わざるを得ないのも、至極当然のことである。そして彼らが集まったということは、何か議題があるということだ。その前に、サダメが不満を口にする。
「それで、何について語るわけ? 聞きたいことは色々あるんだけど」
「聞きたいことか? 一体、何を知りたい」
「リリカたちは多くを知りすぎたわけでしょ? 何故、アンタはいまだに連中を泳がせているわけ? さっさとアイツらの主体性も奪っちゃえばいいじゃん。極端な無能なら放置でいいけどさぁ、半端者が一番、害を成すよねぇ?」
その疑問が出るのはもっともだ。事実、リリカ一行はゴンゾウの計画を阻もうとしているのが現状である。彼女に続くように、シゲルも言う。
「確かにリリカたちは主体性がある方が苦しそうだけど、いくらなんでもボスは無意味なことをしすぎだよ。苦しみを与えることに囚われて、本来の目的を忘れたらよくないと思う」
少なくとも彼の目からすれば、ゴンゾウはリリカたちを苦しめたがっているように見えるようだ。もっとも、それはゴンゾウの意図していることではない。
「君たちが思っている以上に、リリカたちには素質がある。そして奴らは今、世の中の仕組みを学んでいる最中だ。私は奴らにも、選民に加わる権利があると見ている」
確かに、リリカたちは普通の霊媒師よりは優秀だ。しかし彼女たちの実力も、選民会の幹部たちには遠く及ばない。特に、リリカを心底見下しているサダメからすれば、ゴンゾウの思惑は決して面白いものではない。
「要領の悪い生き方をしてきただけの人間なんてさぁ、陰鬱な境遇のせいでなんとなく凄そうに見えるだけだよ? 人間は傷つくだけでは強くなれないんだよ」
「魔力は魂の力だ。逆境に叩きのめされてもなお牙を失っていないあやつらは、育て方次第で化けるだろう」
「走るしかないから走っているような奴は、何も成し遂げられないでしょ。勇敢に戦うことと、自分が戦っているという事実にすがっているだけのことは、全くの別物でしょ?」
案の定、彼女の批判的な言動は止まらなかった。そんなやり取りを傍目に、マヒトが話の腰を折る。
「そんなことより、腹が減った。食事はないのか?」
彼の場をわきまえない態度に、ゴンゾウは静かな怒りを見せる。
「マヒト。今、我々は大事な話をしているんだ」
「今の俺様にとって大事なのは、俺様の胃袋だ。俺様の気分や状態は、常に満たされていなければならない。俺様以外の存在は、等しくどうでもいい」
「……君を選民会に入れたことを、私は時折後悔することがある」
選民会の首領でさえ、マヒトの性格には手を焼いてしまうらしい。呆れたようなため息をつくゴンゾウに対し、サダメが問う。
「それで、どうやってアイツらを説得するの? とてもウチらの掲げるモットーに賛同しそうな連中には見えないんだけど」
正義感の強いあの三人を説得するのは、かなり骨が要るだろう。されどゴンゾウは、何も考えていないわけではない。
「見せてやればいいのだ……主体性から解放されることが、いかに弱者にとっての救いになるか」
そう呟いた彼は、邪悪な微笑みを浮かべていた。




