一緒
カムイの前に広がる光景は、黒い稲妻と起爆による炎に包まれた農村だ。人々が逃げ惑い、逃げ遅れた者たちは次々と絶命していく。そして彼女の目には、幼き頃の彼女自身の姿が飛び込む。幼少期のカムイはデシヴィラに迫られ、酷く錯乱している有り様だった。
「お母さんたちが霊獣を引き付ける! カムイは逃げて!」
そう叫んだのは、カムイの母親だ。彼女に続き、父親も声を張り上げる。
「カムイ! 行け!」
その指示に頷き、幼少期のカムイは走り去った。今その場にいる方のカムイは咄嗟に飛び出したが、彼女の攻撃は宿敵の身をすり抜ける。唖然とする彼女の背後から、一人の老人が姿を現す。
「無駄だよ。過去を変えることは、誰にもできはしない」
――ゴンゾウだ。カムイを取り巻く景色は歪み、崩れ始めていく。彼女の中で、負の感情が渦巻いていく。
「僕があの時、逃げたから、お母さんと、お父さんは……」
彼女は泣き崩れた。その周囲で、空間はみるみるうちに暗くなっていく。変えることのできない過去はあまりにも壮絶であり、カムイの心に深い傷を残していた。そんな中、彼女の背後から、一筋の光が射す。
「おい、カムイ。大丈夫か?」
「お、俺たちが、いるだろ。し、しっかりしろ」
リリカとヒロトの登場だ。景色は眩い光に包まれ、その場には青空と花畑が広がった。感極まったカムイは、リリカの胸に飛び込んだ。
「リリカさん! ヒロトさん! どこにも、行かないでください! もう二度と、僕を一人にしないでください!」
その言葉は、彼女自身の本心を如実に表していた。そんな彼女の背中をさすり、リリカは微笑む。
「あぁ。オレたちは、どこにも行かねぇよ。決して、アンタを置いていなくなったりはしねぇ」
それに続き、ヒロトも言う。
「お、俺たちは、家族だ。ここが、お、お前の、帰る場所だ」
暖かい言葉の数々に、カムイは安堵を覚えた。静かに目を閉じた彼女は、その温もりに身を委ねるようにリリカの身に寄り掛かった。
*
カムイが目を覚ますと、そこは病室だった。寝台に横たわる彼女の側には、リリカとヒロトがいる。
「おお! 目を覚ましたのか、カムイ!」
「お、お前が無事で、ほ、本当によかった……」
「カムイ! アンタの戦い、カッコよかったぜ!」
相も変わらず、二人は彼女の善き味方だった。カムイの頬には、一筋の涙が伝っている。
「リリカさん、ヒロトさん……」
心なしか、彼女の顔つきはどこか儚げであった。当然、リリカとヒロトは困惑の色を隠せない。
「……なんだ?」
「ど、どうしたんだ? カムイ」
二人は屈み、怪訝そうにカムイの顔を覗き込んだ。カムイは掛布団を抱きしめ、か細い声で囁く。
「僕たちは、ずっと……一緒にいられますよね?」
その声は小刻みに震えていた。やはり彼女には、家族を失ったことに対するトラウマが根付いているようだ。無論、リリカたちの答えは決まっている。
「当然だろ? この曲乃リリカが、そう簡単にくたばるわけがねぇんだから!」
「お、俺たちは、ずっと、い、一緒だ!」
そう返した彼女たちは、頬を綻ばせていた。そんな二人につられ、カムイも屈託のない笑みを零す。
「えへ……へへへ……僕は、ここにいてもいいんですね。リリカさんたちのいる所が、僕の帰るべき場所なんですね」
数々の困難を経て、三人は着実に心を通わせてきている。両親が廃人と化した身の上であるカムイにも、まだ守るべき同胞がいるのだ。
リリカは言う。
「よし、メシにするか! なぁ、カムイ。何食う?」
今回の仕事で一番活躍したのは、紛れもなくカムイだ。彼女には、食事を選ぶ権利がある。しかし彼女の受け答えはこうだ。
「僕たち三人で食べられるのなら、なんでもいいですよ」
リリカたちへの想いを口にしたカムイは、繊細な指先で涙を拭った。




