仇討ち
その時だった。突如、両者の間にカムイが飛び込み、大剣でデシヴィラの頭部を受け止めた。
「これ以上、何も失いません!」
何やら彼女は、仲間の危機を経て正気を取り戻したようだ。そして間髪入れずに、彼女は大剣を振り回した。その残像は雷のような挙動を描き、デシヴィラの身には次々と切り傷が刻まれていく。
「つ……強ぇ……!」
眼前で繰り広げられる光景に、リリカは驚いた。仲間を想う心が強いカムイは今、凄まじい魔力をもってして強敵の動きを感知している。あらゆる電撃をかわし、無駄なく大剣を振り、そして彼女は閃光のように舞う。今の彼女を止められる者などいないだろう。その雄姿を目に焼き付け、ヒロトも声を張り上げる。
「いいぞ、カ、カムイ! 俺も、か、加勢するぞ!」
彼はそう言ったが、カムイはその申し出を断る。
「僕一人にやらせてください。僕は、この因縁に決着をつけたいんです!」
そう――彼女は元より、眼前の霊獣に人生を狂わされた身の上なのだ。そんな彼女が自らの手で宿敵を討ちたいと願うのは、至極当然のことである。無論、それが無謀な考えであることも、決して否定はできない。
「ダ、ダメだ! アイツは、つ、強すぎる!」
そう叫んだヒロトは、咄嗟に駆け出そうとした。そんな彼の前に躍り出たのは、リリカである。彼の拳を受け止め、彼女は言う。
「やらせてやれ。今日の主役は、カムイだろ」
因縁の戦いに水を差すわけにはいかない――リリカはそれを理解していた。ヒロトは深いため息をつき、それからカムイに目を遣る。当のカムイは相変わらず俊敏な動きを見せているが、決して息を切らしてはいない。そればかりか、今押されているのは、あの災害級の霊獣――デシヴィラだ。
仲間の勇姿に魅入られ、リリカは思わず声をあげる。
「やれ! カムイ! アンタの無念に、決着をつけろ!」
その後に続き、ヒロトも応援の言葉を口にする。
「ぜ、絶対に、勝て。い、今のお前なら、それができる!」
一発、また一発と、カムイの斬撃がデシヴィラの巨体を傷つける。彼女の挙動には、一切の迷いがない。
「お母さん、お父さん。そして、故郷の皆。僕は、あなたたちの失った全てを背負い、この化け物を討ちます!」
そんな誓いを口にしたカムイは、大剣を大きく振りかぶった。それから振り下ろされた大剣は、標的の頭部を一刀両断した。
――デシヴィラは数瞬ほどもがき苦しみ、それから勢いよく爆発した。
カムイの勝利だ。激しい闘争を経た彼女は力尽き、その場で気を失った。
「カ、カムイ!」
思わず、ヒロトは彼女の方へと駆け寄った。一方で、リリカは依然として冷静である。
「呼吸と脈を確かめろ。気道も確保しておけ」
「あ、ああ……わ、わかった」
「……どうだ、息はあるか?」
彼女に指示された通り、ヒロトはカムイの手首に指を添える。その血管が脈打っているのを確認した彼は、次にカムイの口の前に手をかざす。その呼吸は浅かったが、確かに彼女は息をしている。彼女の無事を確認し、ヒロトは胸を撫でおろした。
そこでリリカは、意地悪な笑みを浮かべる。
「アンタに人工呼吸させてみたかったんだけどな」
「は、はぁ? 何言ってんだ!」
「ヒロトはウブそうだからなぁ。今後、アンタが一生カムイを見るたびに唇の感触を思い出す……なんてことになりゃぁ、オレはそれを面白ぇと思うよ」
安堵を覚えたのか、彼女はいつもの不真面目な態度だった。一方で、ヒロトも彼女に翻弄されたままでは納得がいかない。
「あ、あまり、俺をからかわない方が、いい」
そう囁いた彼は、リリカの両手首を掴んだ。彼の顔が眼前に迫ってもなお、リリカはまるで動じていない。
「で、どうするんだ? ん?」
にやけた顔で上目遣いになる彼女を前に、ヒロトは更に頬を紅潮させた。




