知る者
ゴンゾウは大地に杖を突きつけ、恐竜型の霊獣を生み出した。霊獣が雄叫びをあげるや否や、リリカたちは強風によって退けられる。直後、巨大で鋭い爪が振り下ろされ、リリカの眼前まで迫った。そこで動いたのは、カムイだ。標的の動きを感知していた彼女は、大剣で攻撃から身を守る。その隙にヒロトが飛び出し、巨体の足元に蹴りを入れる。この蹴りはいつものように爆発を起こしたが、霊獣にはまるで通用していない様子だ。そこで高く跳躍したリリカは、全身全霊を籠めて太刀を振り下ろす。しかしその刀身は、霊獣の頭部に打ち付けられるや否や粉砕してしまう。相も変わらず、ゴンゾウの生み出す霊獣は強い。されどここで引き下がれば、三人は選民会の狼藉を止めることができない。
リリカは声を張り上げる。
「ヒロト、カムイ! 霊獣はオレが引き付ける! ゴンゾウの杖を破壊しろ!」
あの杖さえ破壊されれば、あの黒幕は霊獣を使役することができなくなる。ヒロトは深く頷き、ゴンゾウの方へと飛び出した。ゴンゾウは身軽に拳をかわし、彼の首筋に杖の先端を当てる。直後、杖からは黒い電流のようなものが発生し、ヒロトの身に容赦なく襲い掛かった。
「……!」
この瞬間、ヒロトは吐血した。続いて、カムイが瞬時に間合いを詰めたが、やはり杖の先を当てられてしまった。カムイは黒い電流に襲われ、地面を転がった。
眼前の霊獣と死闘を繰り広げつつ、リリカは理解する。
「そういや、ゴンゾウ。アンタの杖は、前にファントムを一撃で仕留めていたなぁ?」
「ほう……私の攻撃の正体を見抜いたか?」
「アンタは魂を生み出せる。だからアンタは霊獣も生み出せるし、相手の魂と干渉し合う魂だって作れるわけだ!」
無論、それがわかったところで、彼女に勝算があるわけではない。現に眼前の霊獣は無傷だが、ヒロトたちは酷く疲弊している様子だ。それでもなお立ち上がり続ける三人を前に、ゴンゾウは高らかに笑う。
「ククク……ハハハハハ! 君たちでは私を倒せない! それでも君たちは戦い続ける! 私に怒りをぶつける以外に、君たちには己の人生に納得する手段がないのだからな!」
彼の言葉は、リリカたちの怒りを買う。
「もはや復讐なんて生ぬるいモンじゃねぇ。誰かが裁かねぇといけねぇんだ……アンタみてぇな巨悪は!」
「そ、そうだ! お、お前は、ゆ、許されないことを、した!」
「あなたを倒さないと、より多くの人間が、己が人間であることを奪われるんですよ!」
少なくとも、三人はまだ戦意を喪失していなかった。さりとて、彼女たちの力であの宿敵を討てるわけではない。霊獣に尻尾を叩きつけられ、リリカは後方へと飛ばされた。ヒロトとカムイは二人がかりでゴンゾウの杖を狙うが、軽々と返り討ちに遭ってしまう。内心、リリカたちは諦めかけていた。これほどまでに圧倒的な力量差を前にして、彼女たちが勝てる見込みを望めるはずはないのだ。
その時、ゴンゾウの身に、干渉縞のような切り傷が刻まれた。
リリカたちが一斉に目を遣った先には、ヒズミがいる。
「キミたちには、まだ死なれては困る」
そう言い放った彼は、ナイフを俊敏に振り始めた。先ずは霊獣が爆発し、その場から消滅する。続いて、ゴンゾウも全身を酷く傷つけられ、その場に崩れ落ちた。
この男を仕留めるなら、今が絶好の機会だ。しかしヒズミは、とどめを刺そうとはしない。
「戒場ゴンゾウ……キミは、ボクのことを知っているかい?」
あくまでも、彼の目的は己を知ることだ。彼には、目の前の悪人を殺める理由など毛頭ない。
ゴンゾウは、何かを知っている様子だ。
「ああ……私は、君をよく知っている」
「それなら、キミのことは生かしておこう。ボクにはまだ、知りたいことがあるからね」
「……君が真実を知る日など来ない」
そう言い残した彼は、空間転移の魔術によってその場を去った。




