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ゴンゾウの理念

 後日、リリカたちは霊媒師ギルド本庁のオフィスを訪ねた。彼女たちがここに来た理由は明白だ。話を切り出すのは、リリカである。

「マザー・セラフの地下を調べさせてもらった。ファントムを倒せば依り代が主体性を失うということもわかった。それをアンタが隠してきたってことは、アンタは間違いなくこの件に関わっている」

 彼女の横で、ヒロトとカムイも真剣な顔つきをしている。一方で、ゴンゾウは依然として平然と笑っている。

「そこまでたどり着いたか。ならば私の理念について語ってやろう」

「どんな理念だ?」

「主体性がなければ、人は社会を営めない。だが主体性がある限り、人は傷つけ合い、足を引っ張り合う。世界が上手く回らないのも、人々の主体性が互いを害し合うからだ」

 それが彼の持論であった。つまるところ、彼がマザー・セラフの件に関与していた理由はただ一つだ。

「つまり、選民だけが主体性を持ち、その他大勢がゾンビみてぇな生き方をする世界が正しいってのか?」

 そう訊ねたリリカは、握り拳を震わせていた。もっとも、それで臆するようなゴンゾウではない。

「ククク……そんなところだ。マザー・セラフは私が開発した魔術兵器の中でも最高傑作でな……あれは世界をあるべき姿に導く代物だ」

「ヒロトは父親を失った! カムイの両親は廃人と化した! アンタは……自分のしてきたことをわかっているのか!」

「君たちにとっては、君たちの人生は重要だろう。だが時に、世界は進歩のために礎を要するものだ。誰かが苦しまなければならないし、誰かが苦しめなければならない。私の目指す世界は決して完璧ではないが、確かに美しいのだよ」

 彼の言い分に、ヒロトとカムイは耳を疑った。この時、ヒロトは己の父親のことを思い出していた。一方で、カムイは故郷を失ったことや、マザー・セラフの地下で再会した両親の見るも無残な様を思い出していた。そのこみあがる怒りに身を任せ、彼女は激昂する。

「あなたたちの悪事を、全て公表します!」

 その声色は迫真だった。その眼前にいる黒幕は、相変わらず余裕のある笑みを浮かべている。

「ククッ……そんなことをして良いと思っているのか?」

「当然です!」

 カムイの返答に、迷いはなかった。しかし彼女には、ゴンゾウの悪事を広めることのできない理由がある。そんな彼女の肩に手を置き、リリカは忠告する。

「ダメだ。人の主体性を破壊するような技術は、戦争に使える代物だろ。その存在を公に認めれば、チェレスタ国を潰すために数多の国が結託することになる」

 確かに、あの技術の存在は公に認められて良いものではない。カムイはうつむき、唇を噛みしめるばかりであった。ゴンゾウはリリカに目を遣り、提案する。

「ほう。どうやらリリカ……君は少し利口らしいな。どうだ? 君たちも、選民会に入らないか? 君たちには、主体性を持つ資格があると見た」

 無論、その提案は、彼女の神経を逆撫でするだけだった。

「主体性は、誰からも奪ってはならねぇ! どんなに貧しくとも! 愚かでも! 弱くとも! それでも人は、人として生きるに値するんだ!」

「そうか、残念だ。ならば、始末するしかあるまい」

「オレたちは、アンタには屈しねぇ!」

 この瞬間、リリカの指輪は赤く発光した。彼女の右手に、太刀が生み出される。しかし今彼女たちがいる場所は、ギルドの本庁だ。

「……場所を変えよう。私は仮にも霊媒師ギルドのマスターだからな、空間転移の魔術くらいはお手の物だ」

 そんな提案をしたゴンゾウは、デスクの引き出しから黒い宝玉のようなものを取り出した。


――直後、その場にいる全員が、荒野に転送された。


 荒野であれば、いくらでも激しい戦いを繰り広げられる。

「覚悟しろ、ゴンゾウ……」

 リリカの眼差しは、闘志に満ち溢れていた。

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