日常という財産
本庁の目の前まで到着したリリカとヒロトは、エテコー団の三人と睨み合う。ミルシーたちは深呼吸し、名乗り口上を読み上げる。
「生まれは貧しい未来は眩しい!」
「明日を信じて今日もゆく!」
「三人揃えば負け知らず!」
心なしか、彼らの声はいつもより張りがあった。リリカたちに何かを耳打ちしていた三人には、俄然やる気があるらしい。
「ワガハイはミルシー」
「アタクシはキクヒュア」
「オイラ、ユウセイ!」
「我らエテコー団、ただいま参上!」
いつもの決め台詞を言い終えたエテコー団は、決めポーズを取っていた。さっそく、ミルシーは自分たちの幻影をいくつも生み出し、リリカとヒロトを取り囲んだ。
「どれが本体か、見破られるであるか?」
そう訊ねた彼は、得意気な笑みを浮かべていた。一方で、リリカは苦笑している。
「今喋ってるアンタに決まってんだろ」
「な、なぜバレたのであるか!」
「本体しか喋ってねぇからだよ」
やはりどこまでいっても、ミルシーには抜けているところがある。しかし今回の戦いは、リリカたちにとっても利になるものだ。今回ばかりは、二人もやる気に満ち溢れている。
「行くぞ、ヒロト!」
「も、もちろん、だ!」
リリカは斧、ヒロトは爆発する体術を駆使し、エテコー団と混戦していった。どういうわけか、今回の二人は酷く苦戦している。傍目に見て、彼女たちは標的の体術に翻弄されている様子だった。それでもリリカたちは立ち上がる。
「負けるかよ!」
「お、俺たちを、あ、侮るんじゃねぇ!」
本庁の庭に、彼女たちの大声が響き渡った。しかし二人は、その身を酷く負傷している有り様だった。
「さぁ、指輪をよこすのであぁる! ワガハイは容赦しないのであぁる! 必要なものは、持ち主を殺してでも奪うのであぁる!」
そんなことを叫んだミルシーは、高らかに笑っていた。この戦いに敗れれば、リリカはあの指輪を失うこととなるだろう。
その時である。
「……何をしているんですか?」
この場に、気だるそうな顔をしたカムイが現れた。しかし、彼女はあまり動揺していない様子だ。そればかりか、彼女はただ怪訝そうに首を傾げるばかりである。
「キミも戦うのであぁる! このままだと、ワガハイがリリカたちを倒してしまうのであぁる!」
ミルシーはそう言ったが、カムイは乗り気ではない。
「先ずは用件から話してください。このタイミングで、わざわざギルドの前で騒ぎを起こしているのは、僕をおびき寄せるためですよね?」
奇しくも、彼女は彼の意図を察していた。ミルシーは深いため息をつき、魔術を解除する。リリカとヒロトが負っていた傷も、実際には幻影であった。ミルシーは熱意を籠め、必死にカムイを励ます。
「キミは多くを失ったのであぁる! しかぁし! キミにはまだ、守りたいものがあるはずであぁる!」
「……命に、替えは利きません」
「そんなことは百も承知であぁる! それでも、キミには前を向いて生きて欲しいのであぁる! 仲間の存在は、キミの支えにはならないのであるか! 否! キミにとって、今いる仲間は人生の大部分を占めているはずであぁる!」
それは紛れもなく、彼の本心から出た言葉であった。気づけば、カムイは目に涙を浮かべていた。そんな彼女の肩を軽く叩き、リリカは微笑む。
「カムイ。オレたちは、家族みてぇなモンだ」
「リリカ……さん……ごめんなさい。僕は、そんな大切なことを見落として、自分が全てを失ったと思い込んでいました。だけど、だけど……」
「気にすんな。オレだって、忘れちまうモンなんだぜ? かけがえのねぇモンが日常の一部になりゃぁ、人はその価値を忘れちまう時があるんだ」
二人がそんな会話を交わしている傍らで、ヒロトも頷いていた。その光景を前にして、ミルシーは安堵を覚えるばかりであった。




