地図
翌日、リリカは思い立った。彼女はカムイを連れ、ヒロトの生活する部屋を訪ねた。さっそく、リリカは話を切り出す。
「ヒロト。今までファントムが湧いた場所の記録はあるか?」
「き、記録は、してないが……」
「そうか。だったら、記憶している限りでいい。ファントムが出てきたおおよその場所は覚えているか?」
そう訊ねた彼女は、ペンとチェレスタ国の地図を差し出した。ヒロトは少し考え、地図上に点を置いていく。彼の記憶する限りの情報では、まだ十分な情報が揃わない。
「わ、悪いが、俺が、覚えてるのは、こ、これくらいだ」
無論、そこで諦めるリリカではない。
「十分だ。次はクエストボードを漁り、地図と照らし合わせていくぞ。ファントムが発生する条件を突き詰めるには先ず、奴らがどんな場所から出てくるのかを明らかにする必要があるからな」
過去の事例だけでは説明できないことは、今現在の事例から導き出せばいい。あの水の都の少女がそうであったように、ファントムに取り憑かれた人間が拘束されているケースもあるのだ。
「あ、ああ。必ず、ファ、ファントムの、正体を、暴くぞ」
元より、ヒロトは依り代による飛び降り自殺を目の当たりにした身だ。そんな彼からしてみれば、ファントムの正体を知りたがることも無理はないことである。彼に続き、カムイも言う。
「さっそく、クエストボードを見てみましょう」
選民会との攻防を経てもなお、この三人は真実を追究せざるを得なかった。
それから三人はクエストボードの前に立ち、様々なクエストに目を通した。リリカは黙々と地図上に印をつけ、首をかしげる。何やら彼女は、ファントムの出現場所の特徴をあぶりだしたようだ。
「四つの塔の一つ一つを中心に、ファントムが発生するようだな。だが奇妙なことに、その内側では無造作にファントムが生まれている。他に目ぼしいものがあるとすりゃあ、四つの塔の描く正方形のちょうど中心に、熾天使の石像があるくれぇだな」
この時、彼女はすでに、その石像を怪しいと睨んでいた。
「し、熾天使の石像というのは、その、マザー・セラフ……のことか?」
何やらヒロトは、熾天使の石像について知っている様子だった。独りで生きてきたリリカやカムイとは違い、育ての親のいた彼には地理が理解できるらしい。
「そう! それだよ! そのマザー・セラフって石像は、いつ頃に作られたんだ?」
「れ、霊獣が、出始める、ちょっと前……だな」
「ふぅん。見えてきたぜ。霊媒師とマザー・セラフは、切っても切れねぇ関係と見た。さっそく、あの石像を調べに行くぞ」
善は急げ――とはよく言ったものだ。依然として真実の全貌は見えないが、三人は着実に核に迫っていると言えるだろう。
「そう……だな。し、調べてみないからには、何も、わからない」
「僕も、真実を知りたいです」
そう返したヒロトとカムイには、一切の迷いがなかった。それから支度を済ませたリリカたちは、霊媒師ギルドの本庁を後にした。
それから長い道のりを経て、彼女たちはマザー・セラフと呼ばれる石像の前に辿り着いた。石像は美しく、それでいて巨大だった。一見、仰々しい石像が建っている以外に、妙な点は見当たらない。しかしこの一行には、カムイがいる。
「カムイ。何か妙なモンがねぇか……感知してくれ」
リリカは言った。カムイは深くうなずき、感覚を研ぎ澄ませる。直後、彼女はその場に崩れ落ち、小刻みに震え始めた。彼女は何か、異常なものを感知したらしい。
「地下から……悲鳴が聞こえます。何百人もの人間が、苦しそうに……」
マザー・セラフの秘密は、その地下に眠っているようだ。そしてその秘密は、決して穏やかなものではない。神妙な空気を噛みしめ、リリカとヒロトは息を呑んだ。




