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臆病

 翌日、カムイはギルドの寮を徘徊し、リリカの部屋へと赴いた。しかし彼女が扉を叩いても、返事はない。不審に思ったカムイは、いつものように魔術を使ってみた。部屋の中には、確かにリリカがいる。しかし、その様子は妙だ。

「泣いて……います……?」

 カムイは、リリカが静かにすすり泣く声を感知した。そこで彼女は、そっと部屋の扉を開く。その目に飛び込んできたのは、ベッドにうずくまりながら震えているリリカの姿であった。

「なんだよ、カムイ。どうした?」

 そう訊ねたリリカは、目の下に隈ができていた。その頬は少し紅潮しており、彼女が長時間泣いていたことを物語っている。無論、それを気にかけないカムイではない。

「リリカさん。僕たちは、仲間です。一人で抱え込まないでください」

 彼女はそう言ったが、リリカはすっかり塞ぎ込んでいる。

「カムイ。オレは、アンタやヒロトのことを仲間だと言った。だけど本当は、オレはアンタらより上に立とうとしていたんだ」

 この涙は、サダメに罵倒されたことを思い出してのものであった。あの少女に全てを見透かされ、そして全てを否定されたリリカは、その有り余る自尊心を容赦なく傷つけられたのだ。


 そこでカムイは考える。

「……とりあえず、ヒロトさんも連れてきますね」

「なんでだよ……」

「リリカさんが何を思っていようと、僕たちは仲間です。嬉しい時間も、悲しい時間も、僕は全部分け合っていきたいです」

 その言葉に、嘘偽りはない。彼女は本心から、リリカを大切に思っていた。



 しばらくして、リリカの部屋にはヒロトを連れたカムイが戻ってきた。リリカは虚ろな目をしており、その表情に生気はない。それでもヒロトたちは、彼女が語り始めるのを待つ。決して、二人は彼女を急かしはしない。


 リリカは語る。

「サダメの奴に言われたんだ。オレは自分を重要だと思い込みたいだけだし、今まで苦しんできた自分を強いと思いあがっていたんだ。だけど、ただ叩きのめされてきただけの人間は、弱い。オレは……弱い人間なんだ……」

 そこに、いつもの自信に満ちた雰囲気はない。その声はか細く、それでいて震えていた。一方で、ヒロトとカムイはそんな彼女を弱いとは感じていない。

「じ、自分を……あまり、卑下、するな。お、お前らしく、ない」

「そうですよ! リリカさんは強い人間ですし、頼りになります!」

 二人はそう言ったが、リリカの心には響かない。感極まったリリカは、様々な感情を交えて声を張り上げる。

「オレはただ、自分を偽ってきただけなんだよ! 全能感が大好きだから、自分をスゲェ奴だと思いてぇから、自己愛でしか心を守れねぇんだ! 本来のオレを……脆い心を守るには、強ぇ自分を演じるしかねぇんだよ!」

 元より、彼女は自信家である以前に、一人の人間に過ぎないのだ。重苦しい空気が立ち込める中、彼女はこう続ける。

「オレは臆病なんだ。己の弱さを認めたら、己の築き上げてきた全てが瓦解するとさえ思っている。オレは何者かになりてぇし、だけど自分が自分であることは苦しい。オレは自分と向き合うことから、ずっと逃げ続けてきたんだ」

 普段のリリカなら、絶対にそんな弱音を吐くことなどないだろう。それでもヒロトたちは、どこか彼女の弱さに納得してしまう。そこでカムイはリリカを抱きしめ、優しさに満ちた微笑みを浮かべた。

「カムイ……?」

「そんなに難しい話ではないと思います。リリカさんはただ、人に甘えるのが得意じゃないだけですよ」

 その言葉に、リリカは我に返った。その後に続き、ヒロトも彼女を励ます。

「リ、リリカ。お前は、よ、弱くなんか、ない。し、仕方ないんだ。苦しい時は苦しい……それが、人間、だと思う」

 二人の優しさに、リリカは更に泣き崩れるばかりであった。

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