無神経
同じころ、カムイは手袋を着けた少年と戦っていた。いくら相手の動きを感知できる彼女にも、その少年の攻撃には対応しきれない。少年は光線を連射しており、カムイにはそれをかわせるだけの「身体能力」がないのだ。そうなれば、彼女がすべきことはただ一つだ。
「攻撃を浴びながらでも、戦うしかありませんね……!」
回避できない攻撃を止める方法は、相手を倒すことだけだ。カムイはいつものように、俊敏な挙動で大剣を振っていく。しかし彼女の身は、高熱を帯びた光線によってみるみるうちに傷つけられていく。
少年は問う。
「どうして逃げないの? きみは、報いることにこだわるのかい? 故郷が奪われたことの埋め合わせは、報いることでしか成し遂げられないのかい?」
その言葉に、他意はなかった。彼は純粋に、目の前の少女の心情を理解できないのだ。無論、そんな彼の態度は、カムイの怒りを招くばかりである。
「僕の故郷が滅びたことで、たくさんの命が失われたのですよ!」
彼女はそう叫んだが、眼前の少年は依然として感情を理解していない様子だ。
「なんで怒るの? そんなに命が大切なら、命を補充すればいいのに」
「命を、補充……?」
「失った人数分の仲間を作ればいいじゃん。故郷がなくても、別の場所に住めばいいじゃん。どうしてきみは、慣れ親しんだものでしか満足できないの?」
そんな質問を繰り返しつつ、少年は依然として光線を撃ち続けていく。彼は常に無邪気な笑みを浮かべているが、その感情は決して容易に読めるものではない。
この少年の思考回路は、根本的に常人のそれとは違うのだ。
カムイは剣術を駆使していくが、少年は光線の反動を利用した高速移動で斬撃をかわしていく。その上、撃たれた光線は彼を移動させるだけでなく、その場に激しい爆発をもたらしていくのだ。少年は相変わらず無傷のままだが、カムイは酷く負傷している。もはや勝算など無に等しいが、それでもカムイは引き下がれない。
「命に……替えは利きません! 奪われた分の無念を晴らさなければ、僕は前に進めないんです!」
「それって、なんの意味があるの? きみが奪われたものは物理的なのに、どうして感情にこだわるの?」
「例え物理的であっても、僕が心を通わせていたものだからです!」
憤るあまり、彼女は考えなしに飛び出した。当然、彼女は標的からの攻撃を、正面から食らってしまう。肩で呼吸をしつつ、カムイは相手を睨みつける。その目に宿るのは、紛れもない憎しみだ。
そんな彼女に対し、少年は追い打ちをかける。
「ちょっと待ってよ。ぼくがきみのものを奪ったわけでもないのに、どうしてぼくに怒るのかな?」
「あなたが……僕の奪われてきたものを愚弄したからです! 僕は……戒場ゴンゾウのことも許せませんし、あなたのことも許せません!」
「許すか許さないかを選ぶのはきみなんだから、ぼくが許されなくてもぼくのせいじゃないと思うよ」
それが彼の考えだった。この少年には、相手を怒らせるような言動をしている自覚などなかった。
カムイの理性は、半ば決壊しかけている。
「……あなたの名前を教えてください。僕は絶対に、その忌まわしい名前を忘れはしません!」
「ぼくは生原シゲル。まあ、ぼくに名前をつけたのはお母さんなんだから、名前が忌まわしいかどうかはぼくの責任ではないね」
「その名前が忌まわしいのは、あなたの名前だからです! それがどんな文字列であろうと、あなたを形容していれば醜いんです!」
彼女からこれほどまでの言葉を引き出したのは、他ならぬシゲルの異常性だった。一方で、シゲルはそれをまるで理解していない様子だ。
「失礼なことを言うね。まあ、きみは育ちが悪いから仕方ないか」
その一言により、カムイは我慢の限界を迎えた。




