シニカル
リリカは一先ず、一心不乱に太刀を振り回した。眼前の少女には、次々と切り傷が刻まれていく。しかし妙なことに、少女の負う傷は全て、瞬時に回復していくのだ。少女はリリカを嘲り、粉末のようなものを振りまいた。その直後、リリカは咳き込み、呼吸が荒くなり始めた。
「な、何をしやがった……! いや、自分で言うわけねぇよな……」
相手からしてみれば、自らの手の内を明かす理由などない。持ち前の頭脳により、リリカは推測しなければならないのだ。
一方で、眼前の少女は余裕綽々としている。
「アンタは、自分を重要だと思いたい。そして何らかの真実を暴けば、自分が重要人物になれる――アンタはそう思ってる。ファントムのことを知りたい以上に、アンタはそれを暴いたという事実が欲しいんだよ!」
そう語った彼女は、リリカの腹に蹴りを入れた。吐血したリリカは、鋭い眼光で少女を睨みつける。
「おいおい、オレのことを見透かしたつもりか? アンタの方こそ、大物ぶりたくて必死なんじゃねぇのか!」
勢いよく振り上げられた太刀は、少女の腹を深く切りつけた。無論、少女は依然としてすぐに再生する。
「ウチはアンタに、教えてあげただけだよ? 成果を出さないと必要とはされないし、アンタは必要とされないことを恐れる。だからアンタは、自分を重要だと思いたいし、自分がそのために頑張ってきたと勘違いしているんだ」
「言うじゃねぇか。だがオレは、今に至るまでに……」
「魔女狩りに遭ったり、監禁されたり、友人を失ったりした……って話?」
何やら、彼女はリリカについて知っている様子だった。同時に、それは余計にリリカを混乱させることでもある。
「それを知っているなら、何故オレが頑張ってきてねぇと言えるんだ!」
実際、あの境遇は正気の沙汰ではない。彼女が苦労してきたと豪語できるのも、何らおかしな話ではないのだ。
無論、少女は無意味なことを言ったわけではない。
「マジウケる! 過酷な生活を強いられただけで、自分が強くなったと思ってんの? 必要条件と十分条件の区別くらいつけようよ!」
「あ? 何が言いてぇんだよ!」
「よくいるんだよねぇ。苦境に叩きのめされてきただけのことを、苦境と戦ってきたことだと勘違いしている奴って。本っ当にわかりやすいよねぇ」
その言い分に、リリカは何も反論できなかった。彼女は確かに苦しんできた。しかし、彼女は決して、苦しみと戦ってきたわけではないのだ。それでも、リリカには納得などできない。
「オレが真剣に苦しんできたことを、よくもそんな風に言えるな……!」
一見、その怒りは、至極真っ当なものに見える。今の彼女と同じ立場に在れば、多くの人間が憤るだろう。されどその怒りも、眼前の少女からすれば取るに足らないものだ。
「自分が傷ついたから、自分は正しい――なんて思考回路の奴は、一生ドン底から抜け出せないんだよねぇ」
この少女の放つ言葉は、ことごとくリリカの神経を逆撫でしていた。
「ウッゼェなぁ! さっきから偉そうに講釈を垂れているアンタは、一体なんなんだよ!」
「ウチは香月サダメ――選民会の幹部だよ」
「言いてぇことはそれだけか? オレにイチャモンばかりつけるわりには、アンタ自身は空っぽなんだな!」
この時、リリカはすでに冷静さを欠いていた。一方で、サダメは依然として余裕を感じさせる笑みを浮かべている。
「ウチの言ったことが、何もわかってないんだね」
「なんだと……!」
「ドラマチックな人生を送ったからといって、それが強さの裏付けになるとは限らないんだよ。ウチが勝者であるのに、ウチの人生が面白いものである必要なんかないってわけ!」
それが彼女の価値観だった。薄れゆく意識の中で、リリカは歯を食いしばるばかりであった。




