猛進
それからリリカたちは屋敷の最深部を目指し、霊獣の群れと交戦していった。リリカは機関銃を乱射し、ヒロトは周囲を爆撃し、カムイは稲妻のような挙動で剣術を発揮していく。しかし屋敷を守る霊獣は、いずれも妙な強さだった。彼女たちの攻撃は、まるで通用していない様子だ。
そこでリリカは、二人に指示を下す。
「目標を見誤るな! コイツらを倒すことより、上手く撒いて突き進むことだけを考えろ!」
今回、三人の目的は霊獣を狩ることではない。無論、それはヒロトたちも理解していることだ。
「あ、ああ、わ、わかってる、けど……」
「数が多すぎるんですよ!」
言うならば、屋敷の廊下は霊獣に覆いつくされているようなものだった。先へ進むには、敵勢を鎮めていくしかない。喧騒の中で舌打ちをしたリリカは、ロケットランチャーを生み出した。彼女が放ったロケット弾は勢いよく爆炎を噴き出したが、やはり霊獣を退けるには至らない。蛇型の霊獣が、彼女の腹に巻き付いた。
「クソッ……離せ!」
リリカは必死に足掻いた。彼女は何本ものクナイを生み出し、標的の蛇腹を貫いていった。しかし彼女には、拘束を逃れることができない。蛇型の霊獣の身が再生していく一方で、リリカの身は徐々に鬱血していた。
「リリカ!」
その場に飛び込んだのは、ヒロトだ。彼は鮮やかな正拳突きと凄まじい爆発により、霊獣の身を粉砕する。これで、彼はようやく一体の標的を仕留めた。されど彼らはまだ、数多の敵に包囲されている。続いて、リリカの眼前に、虎型の霊獣が迫った。その霊獣の身を一刀両断したのは、カムイの大剣だ。
「リリカさん! 無事ですか!」
そう訊ねた彼女は、息が上がりかけていた。この緊迫した状況で、リリカが何を考えているのか――それはヒロトたちにはわからない。否、それはもはや、理解できるはずのないことである。
「アンタらは霊獣を倒したのに、オレだけ倒してねぇ! こうなりゃ、狩り尽くすしかねぇ!」
あろうことか、二人の行動が彼女の心に火をつけた。当然、ヒロトたちは困惑するばかりである。
「は、はぁ? な、何、言ってんだ、お前! お、お前が、い、言ったんだろ! 倒すことは、じゅ、重要じゃ、ないって!」
「そうですよ、リリカさん! こんな大量の敵を相手にしていたら、キリがありませんよ!」
例え頭の回転が早くとも、結局のところリリカは曲者だ。それでいて、彼女は己を愛しすぎている。
「だってよぉ、オレだけ霊獣を倒せてなかったらオレが弱ぇみてぇじゃん! オレはカッコよく在りたいわけ!」
この霊媒師が最優先するのは、効率ではない。彼女が一番に重きをおいているのは、己が魅力的か否かだ。リリカは太刀を生み出し、全力をもってして敵勢に突っ込んでいった。幸い、彼女は善戦しており、霊獣を次々と殺めている。この光景を前にして、カムイとヒロトは苦笑いを浮かべるばかりだ。
「ヒロトさん。確か、魔力は魂の力なんですよね?」
「あ、ああ、そうだ」
「リリカさんが今の瞬間に強くなったのは、格好つけたいという気持ちが強まりすぎたからなんですね」
何はともあれ、リリカの自己愛は功を成した。この調子で廊下を突き進み、階段を駆け上がり、三人はいよいよ最深部に到着する。
「邪魔するぜ!」
声を張り上げたリリカは、扉を開いた。彼女たちが予想した通り、最深部の部屋にはゴンゾウが待ち受けていた。その他にも、三人の見知らぬ人物がいる。
「……ここまでたどり着いたか。見事だ」
それがゴンゾウの第一声だった。そこでリリカは、単刀直入に話を切り出す。
「マスター。ファントムについて知ってることを、全て話してくれ」
その一言により、ゴンゾウの顔つきが変わる。やはり彼は、何かを隠している様子だった。




