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漆黒の屋敷

 それからリリカたちは、すぐに漆黒の屋敷の目の前に到着した。ここでリリカは、率直な感想を口にする。

「しかしカムイ……アンタ、よくこの屋敷の色までわかったな。その魔術、色も感知できるのか?」

 確かに、山奥にゴンゾウがいることを感知することができても、それはカムイが屋敷の色を言い当てたことの説明にはならない。されど、現に彼女の言ったことは的中しているのだ。そこでカムイは、自分が建物を黒いと断言できた理由を口にする。

「黒い建物は、何故か熱いんです」

 その説明に、ヒロトは首を傾げた。彼には、カムイの言ったことが理解できていない様子だった。一方で、彼女の説明を理解した者もいる。

「ああ、つまり屋敷の表面の吸光度が高ぇから、屋敷の形に沿った太陽熱を感知したというわけだな」

 相変わらず頭の回転が早いのか、リリカはすぐに仕組みを理解していた。一方で、ヒロトは依然として怪訝な顔をしている。

「きゅ、吸光度?」

「物の色というのは、物が反射している光の波長で決まるんだ。そして吸光度というのは、光をどれくらい吸収しているかの度合いのことだよ。黒いものは光をよく吸収するから、あまり光を反射しねぇんだ。だから太陽熱を帯びて熱くなる」

「な、なるほど……」

 そう――熱を感知できるカムイは、間接的に黒い物体を感知することもできるのだ。カムイはリリカの方へと振り向き、質問する。

「それで、作戦は立てましたか? リリカさん」

 相手の素性もわからないのに正面から突入するのは、あまり賢い選択ではなさそうだ。無論、リリカは何も考えていないわけではない。

「カムイ。アンタはこの場所を感知しておきながら、そこで行われている一切の会話を感知していなかった。アンタがギルドに加わった時点で、この屋敷では筆談が用いられるようになったということだ」

「……はい、正解です。何か、ペンを使っているような音は聞こえたのですが、何が書かれているのかまでは感知できませんでした」

「オッケーだ。つまり、マスターがオレたちに隠し事をしているのは、ほぼ確定したようなモンだな。だがここは、あえて正面から乗り込むぞ」

 その発言に、ヒロトとカムイは耳を疑う。

「しょ、正面から? な、なんで、そんなことを……」

「そうですよ。何か安全に忍び込む方法を考えましょうよ」

 二人がそう返したのも無理はない。可能であれば、彼らは安全な道を辿りたいのだ。当然、リリカの決断には理由がある。

「マスターは、オレらをギルドに入れることには積極的だった。つまり、マスターが何らかの形でオレらを利用しているのであれば、オレらを簡単には殺さねぇはずだ。そして何より、マスターはオレらが正面から乗り込むことを想定しちゃいねぇ」

「そ、想定、していない……?」

「普通なら裏から来ると思うだろ? 裏をかかれねぇように対策を張るのであれば、一番ガラ空きなのは表なんだよ」

 その考えに、ヒロトとカムイは感心するばかりだ。

「そ、そうか。確かに、俺がマスターなら、お、お前に対策を張る時、裏をかかれないよう、気を配る」

「僕も、そうすると思います。リリカさんは、ちゃんと考えているんですね」

 やはりリリカは只者ではない――少なくとも、二人の認識ではそうだ。リリカは不敵な笑みを浮かべ、士気を高める。

「乗り込むぞ……ヒロト、カムイ!」

「あ、ああ!」

「絶対に、暴きましょう。マスターの素性を!」

 この時、三人の想いは一つだった。彼女たちは一斉に飛び出し、屋敷のエントランスを潜り抜けた。そこで三人を待ち受けていたのは、無数の霊獣だ。

「……あのマスターが霊獣を倒せねぇはずがねぇ。こいつらは『あえて生かされている霊獣』ってところか」

 その場に立ち込めたのは、不穏な空気だった。

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