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バーベキュー

 樹海から帰る道中でも、リリカたちは話し合う。最初に口を開くのは、リリカだ。

「それより妙だと思わねぇか? ファントムについて一番よく知っているであろうマスターが、オレたちに何も教えてくれねぇなんてよ」

 その指摘に、カムイとヒロトは戦慄を覚えた。

「それって……!」

「ま、まさか……!」

 確かに、ゴンゾウはこの三人に対し、何も説明しなかった。しかし現に、ファントムと分離した人間は、明らかに何かが欠けているのだ。ヒロトたちが動揺する中、リリカは更に踏み込んでいく。

「それに、マスターは妙に強ぇわりに、あまり素性を見せないんだ。マスターがどんな魔法を使うのかすら、オレたちは何も知らねぇ。何か怪しいと思わねぇか?」

 本来、ファントムを倒すことを目的としているのであれば、その正体について説明しておくことが筋のはずだ。して、あの男はリリカたちを雇っておきながら、重要な情報は何も与えていない。それをリリカに追及された今、ヒロトたちが彼に抱く猜疑心は並ではない。その場に数瞬の沈黙が訪れ、重苦しい空気が立ち込める。


 その沈黙を破るのは、カムイだ。

「そういえば、僕は暇な時によく散歩をするのですが、山奥にある漆黒の屋敷……たまにマスターの匂いがします」

 やはり何かを知ることに関して、彼女の魔術はこの上なく便利なものである。一先ず、三人はその屋敷について調べる必要がありそうだ。

「さっそく、い、行くか」

 ヒロトは言った。その目つきには、憎しみが宿りかけていた。しかしリリカは、まだ調べを進めようとはしない。

「ちょっと待ちな」

「なん、だよ」

「せっかく、オレたちは名実ともに仲間になったんだ。楽しいことも覚えていこうぜ」

 そんな提案をした彼女は、屈託のない笑みを浮かべていた。これにはヒロトも、困惑するばかりである。

「た、楽しいことって、た、例えば……?」

「これから山に行くんだろ? だったら、河原でバーベキューだ!」

「河原で、バ、バーベキュー……」

 この時、彼は己の過去を思い出していた。彼はよく、父親と共に魚を捕り、金網で肉を焼いていた。その記憶を呼び覚まされた彼は、少しばかりうつむいた。彼にはもう、父親と大自然を謳歌することなどできないのだ。

「……どうした? ヒロト」

 リリカは訊ねた。ヒロトが顔を上げれば、その目に飛び込んでくるのは新しい仲間の姿だ。ヒロトは安堵の籠った微笑みを零し、話に乗る。

「に、肉……たくさん、く、食おうな!」

 これで話は決まった。リリカたちは一度ギルドに戻り、食材をかき集め始めた。



 それからしばらくして、道具や食材を用意したリリカたちが山奥に赴いた。ヒロトが肉に食らいつく目の前で、リリカは不服そうな顔をする。

「おい、それはオレが育てた肉だぞ」

「あ、甘いな。目を、離したのが、う、運の尽きだ!」

「脂の乗った肉ばかり食いやがって! オレの味覚受容体はすでに、脳を喜ばせる準備をしているんだぞ」

「あ?」

「なんならオレのリパーゼも脂質を分解する準備をしているからな? オレには聞こえる、リパーゼの声が!」

 専門的な用語の押収に、ヒロトの頭は追いつかなかった。一方で、二人の勢いに圧倒されているカムイは、野菜ばかりに手をつけている。

「あ……あの……」

 彼女もまた、肉を欲していた。それを察したヒロトは、肉の乗った紙皿を彼女に手渡す。

「ほ、ほら、よ。お前の分も、よそって、おくから」

「ありがとうございます! やっぱりヒロトさんは、優しいです!」

「うるさい、馬鹿」

 そんな具合で、三人はバーベキューを満喫した。


 その日の夜、リリカたちはテントを張り、横並びになりながら寝袋に入った。明日になれば、いよいよ漆黒の屋敷に乗り込む時である。遊び疲れた三人は、どことなく満足げな表情で寝息を立てていた。


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