フェアプレー
その時、雑木の陰から物音がした。ミルシーたちが振り向くと、その先にはライオン型の霊獣がいる。ここで戦わなければ、彼らに命はない。
「ヒロト! 戦うのであぁる!」
ミルシーはそう言ったが、ヒロトはいまだに塞ぎ込んでいる。そればかりか、今のヒロトに戦えるだけの力はない。
「ま、魔力は、た……魂の力だ。さっきも、い、言ったが、俺には、も、もう、つ……使えない」
そう――彼は今、心が弱っている状態なのだ。こうなれば、エテコー団の三人で敵を討つしかない。
「やるしかないのであぁる!」
ミルシーは己の分身の幻影をいくつも生み出し、霊獣に殴りかかった。それに続き、キクヒュアは超音波で標的をひるませ、飛び蹴りを食らわせる。それからタックルを炸裂したのは、ユウセイだ。五感に訴えかけることだけに特化した魔術を扱う三人は、ほとんど体術で戦うしかない。一方で、相手は霊獣だ。彼らの攻撃を振り払うや否や、ライオン型の霊獣は大声で咆哮した。その衝撃波に飛ばされ、ミルシーたちは地面を転がる。
「奴を黙らせるのであぁる! ユウセイ!」
曲がりなりにも、ミルシーは霊媒師だ。この時、彼は的確な指示をよく理解していた。ユウセイは即座に頷き、魔術を発動する。これで標的の咆哮は無効化され、ミルシーたちはより一層戦いやすくなったことだろう。
そんな戦いの傍らで、ヒロトは震えながらうずくまっている。
「に、逃げれば、あ、い、いいのに……な、なんで……」
何故、あの三人が戦わなければならないのか――彼にはそれが理解できなかった。言うならば、ミルシーたちにはヒロトを守る道理などないはずだ。上手く回らない呂律に抗いつつ、ヒロトは大声を上げる。
「逃げろ! に、逃げろ、よ! ど、どうして、お、俺なんかの……た、ために!」
今の自責の念に駆られている彼からしてみれば、己の命以上に無価値なものなどない。それでもミルシーたちからすれば、彼はかけがえのない好敵手の一人なのだ。
「いずれワガハイは、本気のキミに勝たねばならないのであぁる!」
「エテコー団にかかれば、敵の敵も敵ですわ!」
「オミャーを倒すのは、オイラたちじゃないとダメだ!」
彼らの心は一つだった。その身に傷を負いながらも、三人は必死に戦い続ける。心なしか、霊獣の方も弱り始めている様子であった。
「今であぁる! 全力を叩き込むのであぁる!」
「了解しましたわ!」
「これでカタをつける!」
三人は一斉に霊獣に飛び掛かった。ミルシーは拳を、キクヒュアは飛び蹴りを、そしてユウセイは頭突きを炸裂する。直後、霊獣は数秒ほどよろけ、それから勢いよく爆発した。
――エテコー団の勝利だ。
直後、その場に拍手の音がこだました。エテコー団の三人が振り向いた先にいたのは、リリカとカムイだった。
「アンタらにも、イカしたとこあんじゃねぇか!」
「ありがとうございます。皆さん」
「ありがとよ。一つばかし、貸しができちまったな」
この時になって初めて、リリカはミルシーたちを尊敬するようになった。一方で、エテコー団の三人はあまり素直ではない。
「次会う時は敵同士であぁる!」
「今回は見逃してあげますわ!」
「ヒロトを元気づけてやってくれ! それじゃ、また!」
口々に言葉を残した彼らは、すぐさま樹海を後にした。ヒロトは依然として、陰りのある表情を浮かべたままである。
一先ず、リリカはカムイに礼を言う。
「ありがとな、カムイ。アンタが匂いを感知してなかったら、オレたちはヒロトを見つけられなかった」
「いえいえ。さあ、帰りましょうか」
「帰るぞ、ヒロト」
どんな過ちを経てもなお、ヒロトには帰る場所がある。ヒロトは小さく頷き、ゆっくりと立ち上がった。その目は、涙で潤んでいた。




