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荒れ狂う魂

 ヒロトはうずくまり、嘔吐する。その背をリリカにさすられてもなお、彼が落ち着く様子はない。

「お、お……俺は……ひ、人を……殺し、た……」

 酷く取り乱している彼には、言葉を紡ぐことすら難しかった。リリカとカムイは、懸命に彼を落ち着かせようとする。

「仕方ねぇだろ! アイツは、アンタの親の仇だったんだろ? それであんな態度を取られたら、死んで欲しいって言っちまうだろ!」

「そうですよ! ヒロトさんの怒りは、正当なものです! ヒロトさんを責める者がいるのなら、僕が許しません!」

「それに、マジで相手が死ぬなんて、誰にも予想できなかったんだ! オレだって、アンタの発言であの男が死ぬとは……思ってなかったよ……」

 実際、あれは予想外の出来事ではあった。されどヒロトからしてみれば、予測できたか否かは重要ではない。彼の言動が、他者の死因となったのだ。ヒロトはよろけながら、ゆっくりと立ち上がった。


 直後、高層ビルの最上階は、大きな爆発に包まれた。


 爆風に髪をなびかせているリリカたちは、その身に重い傷を負っていた。何やらヒロトの攻撃対象は、無差別らしい。また、彼が錯乱していることは、火を見るよりも明らかだ。その瞳は、真っ赤に発光している。

「よせ、ヒロト! 落ち着けって! なぁ!」

 リリカは声を張り上げた。しかしヒロトは、依然として爆発を起こしていく。建物が崩れゆく中で、リリカたちは必死に思考を巡らせる。このまま地上に転落すれば、彼女たちはあの男のように絶命することだろう。そこでリリカは鎖鎌を生み出し、鎌を放り投げ、その切っ先を隣のビルに突き刺した。続いてカムイの手を取った彼女は、その場から高く跳躍する。鎌が建造物の壁を削り取っていく際の摩擦により、二人の下降は減速される。リリカがこの判断に至るまでに、一秒もかからなかった。


 それから地上に着地した二人の前に、ヒロトが五点接地で降り立った。彼の顔つきは、依然として理性を失ったままだ。その上、彼は間髪入れずに爆炎を放ち続けており、その威力も決して尋常ではない。爆風に飛ばされないように身構えつつ、リリカは叫ぶ。

「魔力は……使用者の魂の力だ! 今のヒロトは、感情が暴走して強くなってやがるんだ!」

 その後に続き、カムイも不安を口にする。

「やはり、一度気絶させないと……落ち着かないでしょうか。ヒロトさん……」

 事実、ヒロトは我を失っている。ここで彼を止めるには、彼を気絶させる他ないだろう。しかし、感情の暴走している彼に魔術で勝つことは難しい。リリカは太刀を生み出し、それを前方に突き立てた。同時に、カムイもまた大剣を構える。二人の目に宿っているのは、純然たる闘志だけではない。

「オレたちが助けねぇと!」

「ええ、そうですね。今ここで逃げたら、一生後悔することになると思います」

「オレたちは、もう失うことにはウンザリしてんだ!」

 そう――彼女たちは今、ヒロトを本心から救いたいと願っているのだ。リリカたちは一気に間合いを詰め、剣術を発揮していった。しかしその斬撃を華麗にかわしつつ、ヒロトは二人を爆発に巻き込んでいった。爆炎に呑まれたリリカは宙を舞い、その身を瓦礫に叩きつけられる。この時、彼女は瓦礫に足を挟まれた。その場から動けない彼女の方へと、ヒロトはじりじりと詰め寄っていく。

「ヒロトさん! 目を覚ましてください!」

 そう叫んだカムイは、咄嗟に飛び出した。そんな彼女を片手で振り払い、ヒロトは歩みを進める。振り払われたカムイは後方へと飛ばされ、地面を転がった。このままでは、リリカが戦死することとなる。

「なぁ、ライム。オレ、アンタに会えるかな……」

 親友の名を口にしたリリカは、半ば生き延びることを諦めかけていた。

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