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疑問点

 翌日、ギルド本庁の図書室にて、リリカは本を漁っていた。

「空がなぜ青いのかを知りたがっていた僕は今、人がなぜ生きるのかを知りたがっている」

 相変わらず、彼女の口からはあの歌が紡がれていた。無論、本来の彼女は、積極的に読書をするような性分ではない。そこで彼女の側を通りかかったのは、カムイである。

「何か、調べ物ですか?」

 元より、リリカはファントムの正体を突き止めようとしている身の上だ。そんな彼女が図書室にいるということは、やはり何か目論見があるのだろう。


 リリカは言う。

「元々、ファントムは人間の欲望に反応して肉体に憑依するはずだ。だがファントムを倒された人間は、一瞬にして改心する」

 その話のおかしな点に気づけず、カムイは首を傾げるばかりだ。

「改心するのは、良いことだと思いますが……」

 そう返した彼女は、怪訝な顔をしていた。そこでリリカは、己が意味したところを説明する。

「ファントムに取り憑かれる前から、元々悪人だった奴もいるはずだろ。なのにファントムと分離することが改心の十分条件になっていたら、それはおかしいんだよ」

「言われてみれば、妙ですね」

「それに、ファントムと分離した人間は絶対に取り乱さねぇんだ。自分が暴走した引き金は記憶しているにも関わらず……な」

 ただ破天荒に振る舞っていたように見えて、彼女はファントムという存在を観察し続けていたらしい。そんな彼女に、カムイは感心するばかりであった。


 リリカの好奇心を掻き立てた事実は他にもある。

「ヒロトの奴が言ってたんだ。一度ファントムと分離した人間は、もう二度と取り憑かれないってな」

 そう――あの話を聞いた時点で、リリカはすでに不穏なものを感じ取っていたのだ。

「それは妙ですね……」

 これにはカムイも、緊張感を噛み締めるばかりであった。極めつけは、彼女たちがA級クエストに向かった先で見たものである。

「先日の女の子も、オレに焚き付けられた時、訴訟を起こすことに無関心だった。ファントムに取り憑かれた人間には、確実に何らかの後遺症が残っている」

 本来、大切な養父を謀殺された者は、訴訟に積極的になるはずだ。されどあの少女は、終始無表情を貫いていた。考えてみれば、それは紛れもなく不気味な話である。このまま何も考えずにギルドで働いていくことは、二人からしてみれば窮屈だろう。

「ヒロトさんに、色々聞いてみませんか?」

 そう提案したカムイは、真っ直ぐな目をしていた。リリカは深く頷き、カムイと共に図書室を出た。


 それから二人は、ヒロトの寮室を訪ねた。リリカは単刀直入に質問する。

「なぁヒロト。一度ファントムから分離した人間は、必ず改心してきたか?」

 その声色と顔つきは真剣そのものだった。普段は彼女に振り回されているヒロトにも、それはありありと伝わっている。

「俺が見てきた範囲では、そうだった。だが一度依り代となった人間がその後歩んでいった人生については、俺は何も知らない」

 それが彼の回答だった。リリカは少し考え、次の質問に移る。

「感謝の手紙とか、そういうのも受け取ったことはねぇのか?」

「ないな。依り代になった人間が何を考え、何を感じているのか……その類の情報がこちらに流れたことはない」

「なるほど、そいつは妙だな」

 やはり彼女たちが関わっていることには、何か裏がありそうだ。一先ず、リリカとカムイは、彼に先程していた話を伝えることにした。



 話を把握したヒロトは、ふと思い立つ。

「……数年前、俺は親父を依り代に殺された。その元依り代を訪ねて、話をうかがってみる」

 ここまで来たら、彼らは真実を知らずにはいられない。当然、リリカにもその権利はある。

「オレたちも同行する。今回ばかりは、悪ふざけは無しだ」

 この時ばかりは、彼女も真面目な表情だった。

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