町の陰謀
その時である。
「やれやれ、世話が焼ける」
ヒロトの背後から、しゃがれた老人の声がした。彼が振り向いた先には、ゴンゾウがいる。
「マスター……!」
「下がりなさい」
「は、はい!」
マスターの命令は絶対だ。ヒロトは言われるままに退き、後のことをゴンゾウに任せる。瘴気をまとう少女は首を妙な角度に曲げ、乱入者を睨みつける。
直後、膨大な瘴気の塊が放たれたが、ゴンゾウはそれを杖の先端で受け止めた。
それからゴンゾウは、杖の先を少女の額に当てた。少女の身から、凄まじい瘴気が溢れ出る。彼女は頭を抱え、先程とは打って変わって苦しんでいる。その光景を前にして、リリカとカムイは息を呑むばかりだ。
「なんて強さだ……」
「流石、霊媒師ギルド本庁のマスターですね……」
その力量差は歴然だ。彼女たちやヒロトの力を束ねても、ゴンゾウの強さには遠く及ばない。辺りは眩い光に包まれ、少女が崩れ落ちた。ほんの一瞬にして、ゴンゾウはファントムを倒したのだ。
「今後は無断でAランクのクエストを引き受けるな。危うく、君たちは殺されるところだったのだぞ」
そう忠告した彼は、その場を後にした。
一先ずリリカは、少女に質問する。
「アンタは何故、ファントムに取り憑かれたんだ?」
「話せば長くなりますが、私はこの町を滅ぼしたいと感じたのです」
「それはそれは……穏やかじゃねぇな」
何やら事情は複雑そうだ。そこで、カムイも少女に発言を促す。
「話してください。僕たちに、あなたの全てを」
こうなれば、少女も全てを打ち明けるしかなさそうだ。リリカが真剣に耳を傾ける目の前で、彼女は語り始める。
「私の養父は優秀な霊媒師で、この町の次期霊媒師長に選ばれるはずでした」
「……続けろ」
「しかし実力主義の社会に反対する者たちが徒党を組み、父の社会的信用を破壊したのです」
「具体的には何をしたんだ?」
「彼らは父の先妻とその家族を謀殺し、その罪を父になすりつけました。そして、父の死刑が執行されました」
この時点で、話はすでに、リリカたちの想像を絶するものだった。
「その徒党を組んだ連中は、どうなったんだよ」
「彼らは当時の霊媒師長の直属の部下だったため、霊媒師長の権力でこの件は隠蔽されました」
「ひでぇ話だな……だけど、町の上層部に罪はあっても、一般市民に罪はねぇんじゃねぇか?」
リリカの言い分はもっともだ。少女は散々な目に遭ったが、それだけでは街を滅ぼす動機にはなり得ない。当然、少女の復讐心には他の理由もある。
「私は知事公館に乗り込み、謀殺の物的証拠を探ろうと試みました。その際に報道機関が買収され、私があの父の養子であるがゆえに国家転覆を狙っていると報道されました」
「お、おい……まさかアンタ、それで市民から迫害でも受けたのか?」
「さようでございます」
ここまでの条件が揃っていれば、彼女に復讐心が芽生えたことにも説明はつく。しかし彼女がそれを行動に移したのは、ファントムの影響でもある。
「今は、町の連中に報復したいと思うか?」
リリカは訊ねた。されど、眼前の少女は妙に落ち着いている。
「いいえ。もうどうでもよくなりました」
それが彼女の答えであった。無論、リリカには、それが少女の本心であるようには思えなかった。そして何より、少女の本心がどうであれ、リリカの想いは揺るがない。
「どうでもいいわけあるかよ。アンタの復讐心は間違ってるが、この町は正さねぇとな」
「そうですか?」
「オレは霊媒師だ。アンタの養父の先妻と交信することもできる。暴力ではなく、司法をもって連中に報いるぞ」
その面構えは紛れもなく、正義感を露わにしていた。そんな彼女に目を向けられたヒロトは、深く頷く。
「そうだな。ただ力をもって戦うことだけが、霊媒師の仕事ではない」
三人は少女を連れ、法廷に赴くこととなった。




