瓦礫の上の死闘
少女の瘴気は稲妻のような形を成し、周囲のあらゆるものを破壊していった。人々が逃げ惑う中で、様々な建物が倒壊していく。その場に立っているのは彼女自身と、リリカ一行だけだ。
「一刻も早く、ファントムを倒さないと……!」
声を張り上げたカムイが、前方へと飛び出す。彼女は巧みな剣術を発揮していくが、少女はそれをまるで意に介していない。少女のまとう瘴気は、カムイの身を勢いよく蝕んでいく。
「かはっ……!」
カムイは吐血し、その場に崩れ落ちた。その体は発熱しており、呼吸は極めて粗い。
続いて、ヒロトが標的に殴りかかる。
「これでどうだ!」
突き出された拳は爆炎を放ち、眼前の依り代を巻き込んだ。されど、その一撃もまた、相手には微塵も通用していない。少女はヒロトの手首を掴み、彼を瓦礫の山へと放り投げた。更に、彼の身には瘴気もまとわりついている。
「リリカ……お前だけでも、逃げろ……!」
必死に声を絞り出し、ヒロトはそう言った。
ここで彼の指示に従うリリカではない。
「時間くらい稼がせろ。アンタらが安全に逃げられるまでは、オレはここから一歩も動かねぇ!」
それは紛れもなく、仲間意識であった。普段は破天荒な彼女も、仲間を大切にする性分ではあるらしい。彼女は機関銃を乱射し、ロケットランチャーをお見舞いし、それから無数の爆弾を起爆させた。しかし眼前の少女は無傷のまま、じりじりと間合いを詰めてくる。そして少女は彼女の胸倉を掴み上げ、彼女の身に瘴気を流し込んでいく。
「今だ、逃げろ! 早く!」
二人に撤退を促しつつ、リリカは全身の節々から血飛沫を散らしていた。その身には瘴気により、黒い電流のようなものが走っていた。そんな彼女に狙いが集中している今、ヒロトとカムイはその場から逃げ出す絶好の機会を迎えていると言えるだろう。
無論、ここで撤退するヒロトたちではない。
「お前が生きて帰らないと、マスターに向ける顔がないだろ!」
そう叫んだヒロトは、依り代の少女の頬に、爆炎を帯びた飛び蹴りを食らわせた。続いて、カムイの閃光のような剣捌きが炸裂する。ほんの一瞬でも気を抜けば、彼女は返り討ちに遭うだろう。大剣を使いこなしつつ、カムイはリリカを鼓舞する。
「リリカさんの命は、そんな安いものではありません! 思い出してください……自分が何者なのかを……!」
「オレは曲乃リリカ――世界一イケてる霊媒師だ!」
「だったら、こんなところで命を落とさないでください!」
そんなやり取りが交わされている間にも、大剣は徐々に標的を退けている。しかし当の標的は、依然として無傷だ。
直後、依り代は瘴気の衝撃波を放った。
この一撃を浴び、三人は苦しみながら後方へと飛ばされる。依り代の少女は人差し指を立て、その先端から瘴気を圧縮した弾丸を連射していく。当然、酷く消耗しているリリカたちには、彼女の攻撃から身を守る余裕など残されていない。その身に風穴を開けられていく中で、ヒロトは己の未熟さを悔いる。
「俺が……止めるべきだった! 例え、コイツらをぶん殴ってでも!」
後悔先に立たず――とはよくいったものだ。今更何を悔いたところで、何もかもが手遅れである。そこで彼が求めるのは、「せめてもの救い」である。ヒロトはゆっくりと立ち上がり、標的の目の前で両腕を広げた。
「目に焼き付けろ、リリカ! これは、俺の……先輩としての責任だ!」
「ヒロト……?」
「俺の死を背負って生きろ! これ以上、何も失いたくなかったら、もう二度と勝手な真似をするな!」
そう叫んだ彼は、真剣な眼差しをしていた。同時に、その身は恐怖で震えている。いくら男を見せたところで、彼もまた人間なのだ。そして恐怖を感じていてもなお、彼は自らの命を張ることを決意していた。




