教会と十字架
エテコー団が走り去ったのを確認し、リリカはカムイに耳打ちする。
「こんなんでも、アイツはオレたちのことが心配なんだな」
その一言に、カムイも微笑んだ。そんな彼女たちに気づき、ヒロトは目を向ける。
「あぁ? なんか言ったか?」
実際のところ、彼がリリカの囁いたことを聞き取っていたか否かは定かではない。リリカは楽しそうに笑いながら、こう受け答える。
「ククッ……なんでもねぇよ」
そのやり取りを尻目に、カムイは確信する。やはりリリカとヒロトの間には、一定の信頼が築かれている――そう感じた彼女は、心に温もりを感じた。
それから三人が向かった先は、美しい街並みの中でも一際目立つ教会だ。その最深部では数人の霊媒師がいくつもの魔法陣を展開し、部屋の中央で磔にされている少女を囲っている。そのただならぬ光景を前にして、リリカは問う。
「因習か?」
仮にそう感じたとしても、それはクエストの依頼主の前で言っていいことではない。そこで彼女の頭を引っ叩き、ヒロトは頭を下げる。
「すみません、うちのバカがご無礼を!」
「いってぇな! オレの素晴らしい頭を労われ!」
「叩けばマトモになるかと思ってな」
やはりどこまで行っても、この二人は衝突してしまうらしい。そんな二人を前に、カムイも今度は呆れたような顔をする。そんな彼女たちに構うことなく、先にその場にいた霊媒師は説明を始める。
「この広間はファントムを封じ込めるための結界だ。しかし、ずっと依り代をここに閉じ込めておくわけにもいかない」
「だから君たちのギルドに依頼を出した」
「どうか、彼女を救ってやってはくれないか?」
そう――それが、少女が磔にされていた理由だったのだ。彼らからしてみれば、一刻も早く仕事をこなして欲しいものである。しかしヒロトは、まだリリカと言い争う。
「ほら、因習じゃなかった。お前、本当に謝ったほうがいいぞ」
「今謝ろうと思ってたけど、アンタのせいでその気が失せた。だからオレに謝れ」
「お前、そろそろ本気でぶん殴ってやろうか?」
「まぁまぁ、そんな思春期のガキみたいな言葉選びするなって、先輩!」
「少なくとも俺は謝罪の一つもできないほど幼くはないけどな」
両者ともに、一歩も譲らない舌戦だ。そこで彼らを止めに入るのは、カムイである。
「あの……それよりも今は、クエストに専念したほうがいいと思います」
その言い分はもっともだった。元より、この三人は言い争うために遠出したわけではないのだ。霊媒師として、三人はこれから、ファントムと戦わなければならない。
リリカは霊媒師たちに言う。
「じゃ、後はオレとカムイに任せてくれよ」
そのたった一言にも、彼女の性格が酷くにじみ出ていた。ヒロトは深いため息をつき、注意する。
「俺もいるだろ。お前の性根が腐っているのはこの際我慢するが、せめて仕事中にはそれに相応しい言動をしてくれ」
「はいはい」
「……本当になんなんだ、コイツは」
こうなるともはや、彼には呆れることしかできなかった。
この後、三人はA級クエストがA級である所以を知ることになる。霊媒師のうちの一人が、魔法陣を解き始める。
「今から結界を解除する。このファントムは本当に強いから、しっかり身構えておくように」
広間の壁に亀裂が入り、周囲は暴風に巻き込まれていく。流石のリリカたちも、この時ばかりは立っているのがやっとだった。
辺り一帯は眩い光に包まれ、教会は倒壊した。
リリカは必死に瓦礫を掻き分け、なんとか脱出した。彼女の目の前では今、つい先程まで磔にされていた少女が凄まじい瘴気をまとっている。リリカの後に続き、残る二人や他の霊媒師も瓦礫から這い出る。そして一言、ヒロトは呟く。
「今日が俺たちの命日になるかも知れない」




