水の都
リリカたちが赴いたのは、水の都だ。建物の間を流れる川の水面では、青空が揺れている。緊迫した顔つきのヒロトに反し、リリカは楽しそうに笑っている。
「メシにしようぜ、メシ。こういう町にあるメシはうめぇんだ、間違いなくな」
「遊びにきたわけじゃないんだぞ。もっと緊張感を持て」
「腹は満たさねぇと戦えねぇだろ。こんな洒落た町じゃ飲食店と住宅の見分けはつかねぇけど、まぁ目に入ったドアを手当たり次第にノックしていけば問題ねぇよ」
それはまさしく、常軌を逸した考えだ。ヒロトは深いため息をつき、カムイは苦笑いを浮かべる。そして厄介なことに、リリカであれば止められなければその奇行を実行しかねないのだ。そこでヒロトとカムイは、リリカを止める。
「霊媒師ギルドの名のもとで、そんなバカげたことはさせないからな」
「僕も、流石にどうかと思います」
「なぁリリカ。頼むから、大人しくしてくれねぇか?」
もはやヒロトは、半ば懇願していた。リリカという曲者を放っておくと、どんなトラブルに遭うかわからない。当の本人はその深刻さを理解せず、怪訝な顔をするばかりであった。しかし癖の強い人物は、彼女だけではない。
「また会ったのであぁる! 曲乃リリカ!」
突如、どこからともなく聞き覚えのある声がした。リリカたちが目を遣った先には、あの三人組がいる。
「生まれは貧しい未来は眩しい!」
――エテコー団だ。ミルシーの後に、キクヒュアが続こうとした。この時、彼女は息を大きく吸い込んでいた。されど三人の名乗り口上は、遮られてしまう。
「勘弁してくれ。それ、毎回やるのか?」
リリカは訊ねた。その質問に対し、エテコー団の三人は怒りを見せる。
「当然であぁる! ワガハイたちのことは、ちゃんと覚えてもらう必要があるのであぁる!」
「そうですわ! アタクシたちは重要ですのよ!」
「オイラたちは、オミャーらのライバルだろ!」
無論、リリカたちからすれば、自分たちが彼らのライバルになった覚えなどない。一方で、リリカはそれなりに意地の悪い性格でもある。
「だってさ! はい皆、注目! 今からコイツらが、面白いこと言いまぁす! ほら皆、拍手して拍手! ぎゃはは!」
その露悪的な言動に、ヒロトは引きつったような顔をした。いくら変人が相手であっても、リリカの態度は決して許容されるべきものではない。
「おいリリカ、流石にイジりすぎだ」
「違うだろ、ヒロト。そこはさぁ、先輩なら『しっ! 見てはいけません!』って言えよなぁ」
「お前なぁ!」
やはりヒロトは苦労人だ。その目の前にはおかしな三人組がいる上に、その横には制御の及びきらない破天荒な霊媒師がいる。そしてその霊媒師に、三人組は馬鹿にされているのだ。
これにはエテコー団の三人も憤る。
「キミたち! やってしまうのであぁる!」
「了解しましたわ!」
「絶対に泣かせてやる!」
散々なことを言われた彼らは今、臨戦態勢だ。それでもリリカたちには、彼らに構っている暇などない。そこでヒロトは、事情を説明する。
「悪いが、今日のところはお引き取り願いたい。あいにく俺たちはA級クエストを受理していて、少しでも万全の体調で依頼に臨む必要があるんだ」
無論、そこで素直に応じるミルシーたちではない。
「拒否するのであぁる! 指輪をよこすのであぁる!」
彼らに聞き分けはなさそうだ。ヒロトは睨みを利かせ、怒号をあげる。
「俺は命を預かっているんだ! それがわからない馬鹿に割く時間なんかない!」
その気迫は、普段冷静な彼には似つかわしくないものだった。これには三人も、怖気づくばかりである。
「す、すまなかったのであぁる!」
「出直しますわ!」
「そ、それじゃ、オイラたちはおいとまするよ!」
エテコー団の三人は、一目散に逃げ去った。




