クエストボード
翌日、リリカとカムイは、クエストボードを見つめていた。指示された依頼を受けるだけではなく、霊媒師は時にクエストを選ぶこともできるのだ。しかし厄介なことに、リリカは自信家だ。
「A級クエストにでも行ってみねぇか? オレたちなら余裕っしょ!」
無論、その自信に根拠はない。彼女はまだ新人である上に、つい先日霊獣に苦戦していたばかりだ。一方で、カムイには適切な慎重さが備わっている。
「流石にまだ、早いと思います……」
「まぁまぁ。やばくなったら逃げりゃいいんだよ。何事も、先ずは挑戦よ」
「大丈夫でしょうか……」
その不安は、極めて妥当なものだった。されどリリカには、引き下がれない理由がある。
「ヒロトに認められたくねぇのか?」
――意地だ。カムイは少し考え、そして頷く。
「……僕も、認められたいです」
「じゃあ話は決まったな。行くぞ、A級クエストに!」
「はい!」
こうして二人の意見は合致した。当然、それを良しとしない者もいる。
「これだから馬鹿をしつけるのは大変なんだ」
突如、リリカたちの背後から声がした。彼女たちが振り返ると、そこにはヒロトが立っていた。
冗談交じりの声色で、リリカは問う。
「アンタも一緒に行きてぇのか?」
無論、それがヒロトの真意ではないことは火を見るより明らかだ。
「ふん。俺はお前らと群れる気はない。まだ仲間だと認めたわけでもないしな」
「だったら、好きにやらせてくれよ」
「先輩として、俺は新入りがいきなりAランクのクエストを受理するところを見逃すわけにはいかない」
生真面目な性格の彼には、強い責任感があった。それでもリリカは諦めない。彼女は挑発的な笑みを浮かべ、ヒロトの心を掻き立てようとする。
「ふぅん、さては怖いんだな? Aランクのクエストに行くのが」
「馬鹿を言うな! 俺はただ……」
「そんなに心配なら、ついてきてくれよ。先輩さんよぉ」
その態度はまさしく、相手を嘲るものであった。依然として、ヒロトの意思は変わらない。
「誰がお前らの心配なんかするか! あくまでも、俺は仕事としてお前らを止める必要があるだけだ!」
それが彼の言い分だ。一方で、リリカにも譲れないものはある。彼女はカムイに目を遣り、発言を促す。
「カムイ、何か言ってやりな」
この時、カムイはうつむいていた。彼女は顔を上げないまま、一言だけ質問する。
「ヒロトさんは、僕たちのことが嫌いなんですか?」
その瞳はやや潤んでいた。彼女の上目遣いに気づき、ヒロトは少しばつが悪そうな顔をした。根が真面目な彼からしてみれば、女を悲しませることは望ましくなどない。
「……わかったよ。このクエストには、俺も同行させてもらう。あくまでも、責任としてだけどな」
相も変わらず、彼は素直ではなかった。何はともあれ、これでリリカたちはA級クエストに赴ける。彼女たちは満面の笑みを零し、フィストバンプを交わした。
リリカはすぐに、クエストボードの一点を指差した。
「決まりだな。じゃあ、このクエストに行くぞ」
彼女に迷いなどない。この女は、吟味などしないのだ。その傍らで、カムイはヒロトに声をかける。
「あの……」
「なんだよ」
「ありがとうございます、ヒロトさん」
そう告げた彼女は、眩いばかりの笑顔を浮かべていた。ヒロトは目を逸らし、ただ一言だけ返す。
「うるせぇよ、馬鹿」
そんな光景を尻目に、リリカは微笑ましさを覚えた。
さっそく、三人はギルド本庁を出た。これから待ち受けている仕事は、今まで以上に骨の要るものだ。そこでヒロトは、二人の後輩に釘を刺しておく。
「……一瞬たりとも気を抜くなよ? 下手を打てばあの世行きだからな」
ギルドのメンバーとしての経験が深い彼は、A級クエストに行くことの意味をよく理解していた。




