序章・第9話『英雄屠り(ヒーロー・ディフィーター)陸』
骨格標本「…暑い」
人体模型「そもそも彼方は隙間風吹きまくりでしょう?」
俺が目を覚ましたのはあの事件から三日後の事だった。
ただ、日中夜に掛けて戦い詰めだったために、疲れが予想以上に溜まってたのかもしれない。
あれから死んだ様に眠りこけていたのだと当事者の三人が証言してるので間違い無い。
目が覚めた時、知らない天井だったのはびっくりしたが、嬢ちゃんが街まで運んでくれたとの事。
何だか少し悔しいやらなんやら…。
ま、あんまり過ぎた事をあーだこーだ言った所で時間が戻る訳が無い。
「998…! 999…! 1000……! ふぅ」
「精が出るねぇ」
「冒険者は体が資本だからな」
「いっそ鍛練そのままこの街で花嫁になったらどうだい?」
「なる気は、無い。ま、嫁さん貰えるなら、考えてみようかね」
宿の裏っ側の中庭で素振りの最中、宿屋のおばさんが声を掛けてきたのでそれに応える。
おばさんの台詞で何時も思うが、この世は等しく理不尽だ。
尚男女の扱いの差が激しい。
それだけ激しく、溝も深い。
「残念だねぇ」
「あんまり乗り気がしないのに、薦められても俺にとっては酷な話ってもんですよ」
「そんなものかねぇ」
「そんなものですよ」
紳士張りの笑顔で微笑み返す。
「さて、と」
今日で滞在三週間目。
そろそろ発つとするか。
三日間の遅れを取り戻すのに十分な資金と体力を手に入れたからな。
軽く支度を終えた俺は何時もの通り、ギルド『探究者』に顔を出す。
「おはよう」
「おはようございます」
事件が解決してお邪魔虫が綺麗さっぱり消えて街がすっきりしたものの、 ギルド施設は相変わらずのバーだ。
これはこれで風情が有るから良いけどな。
ま、それ以前に子供にゃ解らん雰囲気だ。
「今日はどうされますか?」
「取敢えず、今日此処を発ちます」
「そうですか」
「元より俺ァ、根っからの旅烏なもんでね」
「それはそれで少し寂しいです」
それでも二度と会えない、と言う事は無い。
というのも実家は殆ど帰らなかった代わりに、親交の深い人達とは何度か顔を出してたりする。
長年旅をしていると忘れがちな部分だから余計に、だ。
しっかし…。
「――――嬢ちゃんは?」
さっきから見掛けないが。
「そんなに気になりますかな?」
「……いや、何でも無い」
「儂は気になるぞ?」
「お前は少し黙っていてくれ」
「むぅ…」
確かに気になるが、あの一件以来彼女に顔を合わせる度に気まずい雰囲気に包まれてしまった感が有る。
変に妙な距離を置いて来てしまった。
「彼女には買い出しに行かせておりますよ」
「……そうか」
――――そういえば。
「マスターは取り潰されたギルドが非公式と言う事を何処まで知ってたんだ?」
「御想像にお任せします」
と言う事は最初から、と言う事か。
んん?
それってつまる所、今まで見逃してたのは確たる証拠を――――真実とやらを――――掴むためだったという事なのか?
何れにせよ、食えないおっさんだ、マスターは。
「それじゃあ、彼女に宜しく頼むわ」
「ええ、伝えておきます」
●●●
さて、検問を通過して街から出た俺はとある場所で足を止めた。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
「……」
「おうおう、無言の圧力とは恐れ入ったね。それも殺意剥き出しで。よっぽど俺にぶっ飛ばされた事が恨めしいのか、アシュトン・エルヴ=スナートスさんよぉ」
誰しもが発する波導は違う。
特に俺は最近覚えた魂と氣の波調で気付いたって感じだ。
「…貴様の所為で高貴なる儀式を邪魔された挙句、行き場を失ってしまったのでね」
「禁忌を犯した者に、相応しい末路だと思うのじゃがの。ホレ、当然の報いってヤツじゃ」
ノートの言う通りだ。
奴はこれまで幾人の罪無き精霊達の命の灯火を吹き消していっている。
「ま、何にせよ…もう二度と俺と関わる事も無いだろうよ」
「な…に…を……?」
「さよなら、だ」
一生、あの方が居座る世界で絶望の淵を彷徨ってろ。
それから首を斬られた『アシュトン・エルヴ=スナートス』の亡骸が発見されたとの報せが瓦版に載ったのはその翌日だったと言っておこうか。
これで序章は終わりです。
次回から新章に移ります。
それでは何かありましたら削除&修正を入れていきます。




