序章・第8話『英雄屠り(ヒーロー・ディフィーター)伍』
骨格標本「序章もそろそろクライマックスだな」
人体模型「ラストスパート!」
ノートゥング「アクセル全開!」
骨標・人模「「走り抜け!」」
ノートゥング「シリアルのお預け……嫌じゃぁ!!」
人体模型「貴女の存在自体がシリアルなんです」
ノートゥング「があぁぁぁんっ!?」
そいつ等は里の入口に立っていた。
勿論受付の嬢ちゃんは戦力外なので、出来るだけ部屋に篭って身を隠す様に言ってある。
「貴様等の様な人間風情が、儂の里に何しに来た」
俺達がここに来た時とは打って変わり、敵対心を剥き出しに警戒していた。
「我々『聖剣の担い手』『聖光の翼』、『聖騎士の盾』の偉大さが解らないとはな」
「ああ、知らんな…我々の聖地を汚す人間の事等、な」
「貴様!」
一般のギルド員だろうな、如何にも騎士風に取り繕わされた鎧を着た男が俺等の前に身を乗り出してきた。
その手には刃。
騎士剣だろう物を事もあろうかセルジオールに向かって振り翳してきたので、仕方無しに右の中指人差し指で挟んで止めてやる。
「な!?」
おいおい、仮にも精鋭なら白刃取りくらいは習得させてやれよ。
ま、これくらいで驚いてる様じゃ程度が知れる。
というかこの合法幼女、刃を向けられたにも関わらず平然としてるとか、どんだけ俺を頼ってんだって。
寧ろ俺が割り込む所を狙ってやってる節があるから質が悪いのなんの。
あの程度なら咄嗟の自己防衛できる癖にそこまで誘導するなんて、全く…とんでもね―悪女っ振りだよ。
……まぁ、皮肉はその位にしとくか。
「貴様は…?」
中心人物だろう三人の内、最も派手な装飾の女騎士がぽつりと呟くのを聞き逃さなかった。
「人に名を訊ねる時は先ず自分から、が礼儀だろう?」
「…良いだろう。 私は『聖剣の担い手』のギルドマスター・クライン=ハートだ」
成程、こいつが。
「俺はリティ。 訳あって姓は明かせないが『ヴァルハラの一族』…とだけ言っておこうか」
俺を含めた『ヴァルハラの一族』とは、所謂“戦女神”の血を受け継ぐ一族の総称で“神の一族”の一端とはいえかなりの権力を持った一族でもある。
その事は此処、俺等の居るアスガルド領においても、こいつ等の様な“ヨハネ領”においても変わりは無いと思うのだがな。
「…一応言っておくが、現在あんた等の行いはヨハネ様の預かり知れぬ所故、明るみに出たらまず間違いなく天罰が下ると思え」
「何?」
一応修行のために天界に押し掛けて天使の弟子にして貰った事が在る。
その時だな、初めて“天界”がヨハネ領というのを知ったのは。
「ヨハネ領?」
「ああ、嬢ちゃんは知らなかったな。 解り易く言やぁイエス・キリスト様が管轄している領域だ。 此処、アスガルド領でいうオーディーン様や、オリンピア領でいうゼウス様と思えば良いぜ?」
「……お主、何処まで修行に行っておったのじゃ?」
「まだ高天原領は言って無いが…」
まぁそうで無くても殆どは行っているし、ギリギリだげども到達するには最も困難とも呼べる|(異境の地のため)ナルニア領とルルイエ領には足を運べているのは僥倖だったりする。
最も、俺に流れる“とある戦女神”の血を利用した形となったが。
話はそれたが、目の前に未だ居座る敵に視線を戻した。
「此処でお前等が取る事はひとつ……何も言わずに回れ右して此処を立ち去れ、とっとと去ね」
殺気、では無く明確な殺意で以て奴等を威嚇しながら肩に背負った剣の柄を掴む。
この手の奴等は厄介だ。
殺気を充てるだけでは、どうという事は無い。
だから“明確な意思を表さなければ”こいつ等は揺らがない。
「対談を求めておいて尚、殺意を高潔なる我々に向けて放って来るとは…とんだ異教の猿、蛮族よ」
(……何を熱くなってるんだ、俺は!? 精霊達の命を弄び、更には里を穢す黒幕如きに、いちいち気を立てるな。寧ろ奴等の方から出張って来たんだ、これ以上の好都合は無い! その運命に感謝をしろ! それに俺の権能を最大限に生かせ! だからそれまで胸っ糞に溜まったガスと、燻る怒りの焔をひたすらに隠せ! 隙を見せるな!)
逸る気を鎮め、剣の柄から手を離す。
「猿、か。全く…イエス様が知ったらどれだけお嘆きになる事やら」
溜息を付いておケラのポーズを取る。
「――――貴様…」
聖人様曰く、「問題は無い」と。
「貴様等の勝手でこういちいち、ホイホイと天使を降ろされちゃ、天界も困るのでな」
曰く、『生命の木』に問題が生じる、との事。
そう、降ろされた拍子に堕ちられたら困るのだ。
“堕天使”化ならそれ程問題は無いが“穢”呪加――――あれは駄目だ。
直ぐに浄化しなければ領、処か世界という空間自体が崩壊する恐れがある。
無論、そこに住む生物だって例外じゃあ、無い。
それにこいつらで消化・対応できるとは全く思えない。
全く、とんだガキ大将だよ、テメェ等は。
「兎も角“天使降ろし”したいならヨハネ領でやれや。 けどな、どうして持って言うなら…………この俺“越境の放浪者”が相手に…」
――――なるぜ? と言い切る内に“何か”が俺の横を通り過ぎて行った。
そして俺の横を通り過ぎて行った“何か”は目の前のそいつにぶち当たり、鎧を粉々に砕き、網状の形となってそいつを拘束してしまったのだ。
「――――ち、余計な事しくされよって」
そう、通り過ぎた“何か”は魔法だったのだ。
しかも、とびっきりで強烈な。
背後に控える招かざる援軍に悪態を吐きながら方陣形成による霊術『封神縛鎖』を発動、させて次々と拘束させる。
あ、そうそう。
これは因みに無属性の神級魔法『グレイプニル』を霊術で再現したものだからそう簡単には解けないぜ?
「“縛”! “縛”! “縛”!」
しかも念には念を入れて、わざわざ『言魂』で以て強化させてあるし、仕事としては充分果たせたと思う。
「ううむ…見事な“龜甲縛り”じゃのう」
「これ位しなければ“お仕置き”の意味は無いのじゃ!」
セルジオールの呟きに、ノートがふんすと胸を張るが、言う程無いだろ?
それにやったの俺だし、お前はただ単に見てただけだろうが。
何かムカついたんでノートにデコピンを喰らわせ、ふうと一息吐いた。
「やれやれ…。 全く、イエ…ヤハウェもよりにもよってこの俺に面倒事を押付けやがって。 ――――で? 何時まで隠れてるつもりだ?」
先程から背後で感じている魂の波動に向かってイライラを言葉に載せてぶつける。
「いやぁ…スマンスマン。 此処に来た時可愛い女の子がピンチな状況だもんだったからさぁ…つい、ね?」
「嘘付け。 百歩譲って此処の存在を始めから知ってたとして、どんな手ぇ使おうが上空の吹き抜けから此処に入れねェっての知ってんだろ?」
「あれ、そうだっけ?」
へらへら笑うな。
通り越してにへら顔になってるっての。
謙虚を装ってるんだろうが、流石にキモいぞ?
「生憎、と。 俺は他者から美少女認定されたくないし自身も認める気は、無い。 良くて“其処のいけすかないお兄さん”辺りにしとけ」
「あるぇ…弱ったなぁ」
「ホント、俺は感動しちまったじゃないか……こんなに生理的に受け付けない野郎に出会ったのは。 いや、割とマジで最悪」
稀にみる辛辣な言葉を、現れたおっさんに向けて真顔でぶちまけてやる。
「主も人の事は言えんのじゃないのか、ムッツリス…」
「…今此処で地獄に突き落としてやろうか?」
「な、何でも無いのじゃ!」
「よしよし…良い子のノートには後でデコピン十発撃ち込んであげよう」
「ひにゃあ!? そんな、殺生な!?」
「はっはっはー。 口答えするなら更に百発追加しちゃうぞ(はぁと)」
「ふえぇ~ん!」
「九十九精霊を泣かせるとは…まぁ今のはあ奴の自業自得じゃろうて」
「貧相なのは寧ろ望む所だが、俺より後に生まれた奴に言われたか無いね」
まぁ、兎に角解決した訳だが。
取敢えず後はウザやかおっさんに任せて、俺は未だに眠りこけてる嬢ちゃんの所に行くか。
ノートを肩に乗っけて、序でにおっさんのケツを思いっきり蹴り飛ばしてからセルジオールの家に戻る。
熱いベーゼを地に贈ったおっさんの情けない顔?
あんな見る価値の無い物、無視しても構わん。
●●●
うん、自分の部屋には戻らずに嬢ちゃんの部屋に入ったがやましい事はしていないぞ?
あの変態の魔の手から守るためなんだからな?
……という言い訳を朝起きてしたんんだが、結局無駄に終わっただけだった (コンチキショー)。
結局俺だけ(ノートは別)締め出された揚句現在部屋の前で待ちぼうけ、という訳だ。
前科がある分痛い。
まぁ俺がスケベなのはもう諦めて認めざるを得ないが。
「……」
「……全く、お主も懲りないのう」
こめかみを押さえながらセルジオールは此方を眺めてくるが、俺は下心でやった訳じゃないので悪しからず。
「あの変態は?」
聞きたくはないがあいつの事だ、何処で俺等のケツを狙っているのか解らん。
「む、紅葉を送られた者とは思えん言い方じゃな」
「流石に奴と同類にされちゃ心外だ」
「ほう?」
「…元々それが嫌で家を飛び出したからな、あんな奴に背…もといケツなんぞ預けたかねぇよ」
「こりゃまた、言いきったの」
「ったりめーだ。ジェンダーってぇのはそんなに甘かねぇシガラミなんさ」
「世知辛いの」
「…ああ、世知辛ぇな」
ウチの場合は女系だったからな。
ま、トリード家の様な戦女神の家系は何故か女しか生まれなかったからそういう事は一切なかったが、他は女系は女系らしく男が生まれてもすぐに魔術で女に変えられちまう、そんな時代だった。
ただ、長女坊だったからそんな意識が強かった、強すぎたんだ。
「世が世なら、お主は当時以上に大成しておったのかもな」
「よせやい」
例えそうだとしても同じ様な運命を辿ってたんだ、どうこう言える立場じゃ無って事ぐらい解ってたさ。
「おまたせ…て、何辛気臭い雰囲気醸してるの!?」
「あー、いやスマン」
嬢ちゃんが着替え終わったのか、部屋から出てきてシリアスな空気に一瞬戸惑っていたのだが、それをぶち壊す様に変態が登場したお陰で久々にブチギレた。
で、どてっ腹に蹴りを送り付けた後に浄化の力を込めた霊力を足裏に溜めて喉元を踏み付ける。
頭部じゃ効果は薄い、寧ろ開いてはいけない何かを開きそうで怖いのでそうしただけである、他意は無いぞ?
「で、奴等はどうなった? もう引き渡せたのか?」
「げほげほ…まだだ…」
「あ?」
「いや、非公式なギルドっていうのは報告済みだ。それに加え、多くの精霊種等の魂と引き換えに他の領域で天使を降ろそうとしたってのも、な。けど」
「けど?」
「奴等が貴族だって事だ。折角捕まえても握り潰されちゃどうしようもないのさ」
「そこら辺は“その場に居合わせた神貴族を巻き込んだ”と言や通じるんじゃないのか?」
「馬鹿言え。神貴族がそこら辺に居ると思――――は?」
どうやら今一理解してない様だな。
まぁ、確かにそこら辺に普通はいちゃいけない様なモンなんだがな。
「『聖剣・バルムンク』の継承者が居合わせたんだ、例えヨハネ領の貴族だろうが許さん者は許さんとしっかり伝えとけ」
「は? どういぅぐぇ!?」
ころころ変わる顔が鬱陶しいので脇腹を思いっきり蹴って吹っ飛ばす。
幾ら優秀だろうが、ああ言った変態は嫌いだ、生理的に。
「く…痛てて…」
おいおい…心臓抉った筈なんだが。
いや、ちゃんと大量の血が出て……無ぇだぁ!?
穴は…有る。
まさか魔力で血液操作してんのか?
「――――厄介な」
「ん? 何か言った?」
ちっ、穴が塞がってやがる。
割と星が消し飛ぶぐらいの全力でやった筈なんだがな。
「少し黙ろうか、肉壁」
「あれ、今さらっと酷い事言った!?」
「おめでとう、君は良いお笑い芸人になるぞ?」
「そ、それほどでも? …って、何故に疑問形!?」
「ハハッ、ナンノコトヤラ」
今更ながら、コイツの対応が解った気がする。
だが、特級危険物な事には変わり無いな。
「お主等、何を下らん漫才をておる」
おっと、俺とした事が。
「ま、しゃーねぇ。んで、さっきの続きだが…あンたの話じゃ折角とっ捕まえたレディ達をしょっ引く所か未だにこの場に留めさせてる訳だよな?」
「あ、ああ」
「最低限、暗器含めた武具と毒物。で、魔力封印は施してあるな?」
「そりゃあね」
そこ!
ドヤ顔、ウザい。
っと…クッソ、突っ込んじまった。
「無い胸張――――って、完全に男だから全く無いよな。有っても大胸筋はイラネ」
少なくともGの気なんて全く無いし。
俺は女の子といちゃつきたいんだ。
捥げ爆ぜる程度にいちゃつきたいんだ!
……………………閑話休題。
「安心しとけ。そこ等辺の所はぬかりは無い」
「喜べ、たったお前の評価が1M程上がったぞ」
「あんまり変わって無い!?」
「ですね」
「ぐっは!?」
でかして、嬢ちゃん!
ナイス、追討ち。
ただでさえマイナス要素があり過ぎるんだ、この位の社会的ダメージくらい与えても問題無いだろ?
…ま、精神を凍結させる『氷棺の檻』を使う辺り、こいつは甘っちょろい性格じゃないのは解った。
しかも万が一破られれば『悪夢の檻“天獄”』が自動的に発動する様、仕掛けてやがる。
えげつない。
…俺も人の事言えんか。
「どの道奴等は終わりじゃの。シラを切っても『探究者』の職員も目撃しておるし、何より主殿は儂の使い手じゃ」
「――――は?」
「ノート、口を慎め」
「え~」
「何だその目は――――ってちょ…ひっ付くな! ――おい、何してやがるっ!? どどどどど何処当ててんだ!? 止めろ! 乙女の柔肌を無暗に当てるなぁぁぁぁぁ!!」
「いーやーじゃあ~」
ヤベェ…理性が崩壊しそうだ。
いや、ちょっと待て!
絶対にそこまで到達しないちみっ子如きに欲情とか、有り得ねぇだろ!
こうなったら致し方無い!
――――もにゅ。
「…へ? やぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ぶふぉっ!?」
苦し紛れに嬢ちゃんの果実に触れた途端、俺の意識は明後日の方向に吹っ飛ばされて行った…とさ。
●●●
「誠に申し訳ございません」
嬢ちゃんにたわわに実った果実に手を出すという極めて不埒なゼクハラを敢行した俺は嬢ちゃんを前に土下座をしていた。
ノートの抱き付きから気を紛らわしたいが為にやってしまった事なんだが…うん、反省はしているが後悔は無いぞ。
あれは良いものだ。
お陰で紅葉を付けてしまう事になったが。
あれ、俺って案外胸フェチだったりして。
あいや、そんな事より。
「主殿が、すまんの」
「いや、お前が言うな」
「何か言いまして、変態さん?」
「イエ、ナンデモアリマセヌ」
く…おのれぇ!
ああ、こんな情けない自分が恨めしい。
「――――で、話の続きだが…お前ほんとに何者なんだ?」
「ん? 俺は俺だろ」
正しくは、“ただの骨”なんだがな。
「いや、解らん」
解らなくて良い。
事実が全てこいつの耳に入ったらそれこそマズい。
気分の問題なんだよな。
こいつにだけは知られたくは無い。
「ま、誰かに訊かれたら『たまたまそこに居た神貴族の血族の一人がブチギレてぶっ飛ばしました』って言ってくれりゃあ、それで良い。誰だか解らない以上、向こうもそれ以上深くは訊いてこまいよ……誰かさんの口が軽くなけりゃ、な?」
「何故に俺っ!?」
「心当たり有り過ぎだろが」
「……君って大概だねぇ」
「今更だろ?」
「君とは何故か同性と話してる気分になるんだけど…気のせい?」
気のせいじゃないぜ?
「何処へ行くのじゃ?」
「疲れた、寝る」
「何か少しでも食ったら良かろうに」
「ああ…そんな気分じゃねぇ」
精神的にも疲れた。
特にあの変態と何処ぞの九十九精霊のせいでな。
「済まん、セルジオール、嬢ちゃん。後は任せた」
部屋に戻って布団の中に潜った俺は、再び意識を手放した。
久々の投稿です。




