決断のとき(2)
「ふっ」
息を全部吐いて半分吸う。身体のどこにも張りがなくて一番動きやすいところで呼吸を止めた。
迫るトゲパネルとの距離を見切る。サイコブレードを跳ねさせて瞬時に十字に斬り裂いた。同時に前に向けて念動力を放つ。
「こっちの番だぜ?」
四つに分かれながら横を通りすぎるトゲ襖の中心に向かってジャンプ。続いていた流体金属の触手を両断しながら接近した。
地面からの土の槍は追いつかず噛みあうのみ。わずかに方向転換すると首を刎ねながらメタルビーストの横を通り抜けた。
「落ちろ。サイコブラストぉ!」
背中に向けてもう一発、全力の念動力をお見舞いする。メタル飛びトカゲの巨体は地面に一直線に落下した。
(まだ倒せてません)
「わかってる!」
空中で身をひるがえして降りる。首の付け根が不気味に蠢く銀色を見せている。背中に降りたつと、視覚に映っている磁場の大元に向けてサイコブレードを突きたてた。
(わずかに浅いかもです)
「だったらこうだ。エクステンド!」
右手に残っている柄部分が正輝の身長より伸びる。それは反動制御なだけで、剣身側も同じだけ伸びていた。サイコブレードは飛びトカゲのボディを貫き、コアも破壊している。
(こんなことまで?)
「一瞬だけなら、さ」
すぐに伸長分の黄色い光は溶け消えた。念動力を物質化レベルまで凝縮するサイコブレード。それを伸ばすとなると膨大なパワーの念動力が不可欠。変身中の彼でも一、二秒の維持が限界だった。
「勝負あり、だ」
(お見事です)
右手のサイコブレード本体も消す。地面に落ちたメタル飛びトカゲのボディも溶け崩れはじめている。「とぉ!」と掛け声とともにトンボを切って大地に降りたった。
「ふぅ、ちょっとは溜飲が下がった」
(そうでしょう。普通ならあの五人でどうにかってレベルのメタルビーストですし)
「そんなもんだったか?」
言われて余計に胸が晴れる。しかし、すぐに彼らの言動が脳裏によみがえってきた。
「使わせてくれよ」
下卑たギルドの戦士。
「施しを与えねば」
それを当然のように許すこの国の為政者側の人間。
「それは人間じゃないんだから」
判明した途端に見くだす宿屋のおかみ。
「やめてください」
手のひらを返した生地屋の妻。
(どいつもこいつもルキを、妖精種たちを馬鹿にして体よく使うだけ。そんなのが当たり前に通用すると信じ込んでやがる。こんなの許されて堪るか)
興奮で血圧が上がったか頭がくらくらする。
(マサキ?)
「解除」
変身フォームの表面が変質して流体に波立つ。色を失うと銀色を帯びた。弾けるが如く雫となって飛び散ると、それぞれが光の粒子へと変わる。
残された正輝の身体の傍に光の粒子がまとまり、徐々に一つの形をなす。少女の裸身を形作ると、別の粒子が漂ってまとわりつき服へと戻った。元どおりのエメルキアの姿である。
「大丈夫ですか?」
彼は膝から崩れてすがりつく。
「もしかして体調に問題が?」
「いや、フィジカル的にもメンタル的にも問題ない。健康だ。たださ、心がやられてる。少しだけこのままでいさせてくれ」
「はい」
慈愛の面持ちで受けとめてくれる少女。その胸に顔を埋め、両手で抱きつきすがった。この残酷な異世界で頼れるものはエメルキアたち妖精種以外にいない。
「君だけ、だ」
「はい」
なにもかも許してくれる優しい声音に救われる正輝だった。
◇ ◇ ◇
翌朝、宿営地を引きはらったジーギラ戦士団は出発の準備を整える。わずかながら期待していたがマサキは帰ってこなかった。
「駄目だったか」
ウフルバは無念を感じる。
「強くて気のいい仲間になるかと思っていたが。お前はあれをどう思った?」
なんの気なしに傍らの装鎧少女に問い掛けてみる。それは『エノカリス』という個体だった。
「あの方は妖精種の宝です。おそらく戦公様でも敵いません」
「なに!?」
内容よりエノカリスが言葉を放ったことに驚いた。その個体と契りを交わして早十五年ほど。声を聞いたことなど数度もあればいい感じだったのに、会話が成立するとは思ってもいなかったのだ。
「エノカリス?」
「…………」
それ以上話すつもりはなさそうだ。静かに目を閉じて立っているだけ。そうなると置物と変わらない。たまに気まぐれに抱いても無反応の相手だ。
「致し方ないか。テノコト、準備はいいか?」
「はい、戦公様! 皆、急ぎ集合!」
隊列が整えられ、側近が走りトカゲを引いてくる。テノコトがエノカリスを鞍の後ろに載せ、手首を革紐で結んで握りに縛りつけた。その間ももちろん無言である。
「戦公様、準備完了です」
「では、森に向かって出発する」
「了解いたしました。総員、隊形を維持したまま前進!」
歩みはじめた走りトカゲに揺られる。丘を一つ越えただけで目的の森が見えてきた。
「次はいつお前の声を聞ける?」
「…………」
「次にマサキに相まみえたときか」
その無言を少しながら怖ろしく思う。マサキは自身の言うとおり世間知らずだったが、妖精種のことに関しては造詣が深いようだった。彼なら本心を引きだせるのかと思う。
(もしかしたら、我らのほうが使われているのかもしれんな)
メタルビーストの再来で妖精種の重要度は増して、さらに増産が計画されるだろう。
ウフルバは気配のしない背中が気になってしまった。
次回エピソード最終回『決断のとき(3)』 「もう決めた」




