決断のとき(1)
夜の森をバイクで疾走する正輝を遮るものはなにもない。夜行性の肉食獣も怒気あふれる今の彼の前に出てくる度胸はないようだ。
変身後のボディは夜闇の中でさえ見通せる。色彩までは厳しいが視覚までバフが掛かっていた。
少女一人分かさ増しした変身フォームはわずかに重心移動しただけでバイクを曲げられる。一回り大きくなった身体も大きめの車体にぴったりだった。
「持ってかれるるー」
「バッグから出るなよ、ロナ。飛ばされるぞ」
中に隠れた小妖精二人は悲鳴をあげている。
(怒らないで……、というのは無理でしょうね)
「今の俺を止めるのはルキにもできない」
(止めません。マサキの心をこんなにもさいなんでしまった自分を責めているだけです。もう少し現実を、ジノグラフの常識を前もって伝えておくべきだった。あなたがどう反応するかが怖くて避けていたわたしも悪いのです)
エメルキアを慰める余裕もない。少女は今のどす黒く染まった彼に意識をダイレクトに感じているだろう。普段であれば自制できるそれを封じ込めることさえできなかった。
「いたな」
森の中心付近、なぎ倒された木々の寝床にそいつは眠っていた。
「寝こけているところをぶちのめすのは性に合わないけどよ」
(無理です。マサキの強烈な気配を浴びて寝ていられるメタルなどおりません)
「らしいな」
ドラゴンのように長くもない首をもたげてきた。彼は木立の間にバイクを停車させてスタンドを立てる。その頃には飛びオオトカゲのメタル進化種は立ちあがっている。
「丸っきり翼竜だな」
(よくりゅう?)
当然通じない。
「前に話した恐竜の飛行版さ。俺の世界じゃ何種類か確認されてるが、その中でも凶悪な部類に入りそうだ」
(こんな個体が種として成立するほどいて、よく人類は滅びませんでしたね)
「とっくに絶滅してた。化石、骨の名残としてしか知られてない存在」
(そういうことでしたか)
フォルムはほぼ体長4mくらいのプテラノドン。頭に平たい角が生えているところまでそっくりだ。もしかして、あれは舵の役割もしているのだろうか。ただし、翼代わりの広げた被膜も銀色で透けるような代物ではない。
「キシャッ!」
「なんだって? 喧嘩売りに来たんだから買ってくれよ」
正面からなにかを打ちつけられてたたらを踏む。オオトカゲの念動力だ。これがあるからただのトカゲの何倍もタチが悪い。
こちらが体勢を崩しているうちに飛びあがってしまう。飛び道具がなければ届かない高さだ。しかも、その位置から胸に生やしたトゲを地面に向かって飛ばしてくる。
「ただの人間ならそれでなすすべないだろうな。しかし、今の俺は変身中なんだよ!」
ジャンプする。体重操作をして、身長の何倍もの高さまで。さらに念動力を使って多段ロケットのように飛翔した。
飛びトカゲの頭の上まで行ったところで下へと殴りつける。首が怪しげな角度で曲がった。しかし、形態を模倣しているだけで骨のないメタルは死にはしない。そこに脳があるわけでもないので失神もしない。
「こんなところが厄介極まりないってな!」
(普通に殴っただけではどうにもなりません)
「いや、今のは鬱憤をパンチに乗せただけ」
飛びあがる力を失ったボディが落下に移る。如何に変身後の念動力が比較にならないパワーになっていたとて、重たくもなった身体を空中で支えられるほどではない。
「痛くも痒くもないってか? その目ん玉くらいは機能してるかと思ったんだけどさ!」
(見えてはいるはずです。でも、視覚がぶれた程度では怯まないかと)
ゆっくりと漂い落ちたのでは隙だらけ。念動を切って自由落下する。途中で襲い来るトゲのみを念動で回避しながら着地。同時に地を蹴って移動した。
「かさにかかってぶっ放してきやがって! やり放題じゃないぜ? サイコブレード!」
左手を滑らせて右手に念動の剣を生みだす。数倍にも跳ねあがった動体視力をもってトゲを横から叩き斬り地面に穴を穿たせた。後ろに伸びていた触手で引き戻すこともできない。
「これを続けてたらお前はちょっとずつ小さくなっちまうぜ?」
(微々たるものです。あまりいい方法ではないのでは?)
「わかってるわかってる。はったりだって。言っちゃったら駄目じゃん」
空中が黄色く染まるほどのスピードでサイコブレードを振りまわす。それくらいの密度でトゲが飛んできているのだ。ただし、先端のトゲ本体は10cm程度のものなので容積的には小さい。
「こんなんくり返してたって勝負はつかない。次はどう来るよ?」
変身フォームの感覚器がなにかをビリビリと伝えてくる。だが、それは人間の感覚にないものだったので彼にはなんなのか感知できない。十二分に警戒だけしていると、今度は地面からもトゲが生えてきた。
「念動力か。そう来るかよ!」
トゲとは言ったものの、実際は尖った柱である。それが何本も地面から生えて串刺しにしようとしてくる。元が土なので直撃したところでプロテクタが防いでくれようが、足元はどんどんと悪くなってきていた。
「どうする気だ?」
「ギー!」
駆けだすスペースを奪った状態で、胸一面に生やしたトゲをそのまま飛ばしてきた。無数のトゲが生えたパネルのようになったものをである。回避もできない。
「えげつないな」
正輝はサイコブレードを持つ腕を引いた。
次回『決断のとき(2)』 (わずかに浅いかもです)




