ジーギラ戦士団(3)
薄暗くなって、シュミクはジーギラ戦公のところに行く。彼女にとってウフルバも遊び相手の一人足りえる。
「ねえねえ、今夜は?」
「休めと言った」
戦公は苦笑いする。
「空振りかぁ。ところでね、マサキのことどうする気?」
「どうするとは?」
「あれ、役に立たなくない?」
それがシュミクの評価である。
「本当に報告書どおり装鎧戦士を二体も蹴散らしたの? 剣も持ってないのよ」
「証言がある。小妖精は逃げだしたようだが、実際に経路の塞がった賊二名が確保されている。状況証拠は揃ってるな」
「そうかなあ」
急速に興味がしぼんできつつある。顔はいいが、それ以外に取り柄がないように見えて仕方ない。
「夜が上手なら考えなくもない程度かな」
「勝手にしろ」
シュミクは肩をすくめた。
◇ ◇ ◇
夜に入って正輝は日課のトレーニングをしている。腕立て、腹筋、プランクと基本のものに限定されるが、毎日やるかサボるかで大きな差が出てくるものだ。
「マサキ、お食事にしましょう?」
「わかった。ありがとう」
敷物の上に座る。エメルキアが準備してくれた炙り干し肉に噛みついた。獣の肉なのでトカゲ肉に比べると硬くない。親指を立てると少女は微笑んだ。
「なあなあ、旦那」
エメルキアの表情が固くなり、足音もしたのでその男の接近には気づいている。
「なんだよ」
「あんたが使わないんだったら使わせてくれよ」
「なんのこと?」
ギルドの戦士の一人が赤ら顔で絡んでくる。景気づけにいっぱい飲んだか。それだけで嫌悪感が募るが邪険にもできない。
「うちで持ってきた酒、奢るからさ。使わせてくれって言ってるんだ」
「だから、なにを?」
意味がわからない。
「俺ら、昼間の戦いで昂ってんだよ。それなのに、装鎧戦士の姉ちゃんはもちろん、魔法師の女にまで振られちまった。相手してくれる女がいないんだ。だからよー」
男が下卑た目でエメルキアを見ている。それで覚った。使わせろと言ったのは少女のことだ。
「ふざけるんじゃない。あっち行け」
「いいじゃんかよー。あんたは使わないんだろ? 余ってんなら分けてくれよ」
論外である。
「馬鹿を言うな。そんな気は欠片もない。あきらめろ」
「ちっ、なんだよ。ケチくせえ。他の装鎧戦士は使わせてくれてるぜ?」
「あー、なんだって?」
言われて見まわす。シュミクとボダハ、イソポの装鎧少女がいない。本人は酒を飲んだり食事をしたりしているのに少女だけがいない。
そして、車の中からは薄明かりが漏れている。戦士たちも半分ほどしか姿が見えない。車の中でなにが行われているか想像して頭が沸騰した。
「馬鹿野郎! 貴様ぁー!」
正輝は立ちあがった。
「なんだよ、急に?」
「なんてことを!」
「なんてことって普通じゃんか。あんたの装鎧少女にも俺らの精気を分けてやるよ。それがあんたらの力になるんだろ?」
なんとなく受け取った木製のジョッキを叩きつける。中の酒が飛び散った。戦士の男を殴りたくて拳を固めるが自重する。
「ウフルバ! あれをやめさせろ!」
「どうした、マサキ? なにを騒いでる」
「装鎧少女を! 彼女たちを慰み者にするのをやめさせろと言っている!」
指を突きつけて吠えた。
「仕方あるまい。戦士たちには施しも必要だ。酒も許してるし、あれくらいは……」
「見逃すってのか! あんたも同類か!」
「同類もなにも普通のこと。常識ではないか」
「ふざけるのもほどほどにしろ!」
戦士を押しのけてエメルキアを抱えあげる。そのままバイクに乗せてまたがった。ヘッドライトを灯すとプロペラが回りはじめる音がする。
「ロナとルーザも行くぞ! こんなとこに一時たりともいられるか!」
「あーい」
「あーあ、マサキが爆発しちゃった」
シャツにもぐり込んできたのを確認してクラッチを繋ぐ。一気に加速して走り去った。宿営地をみるみる離れていく。
「よかったんですか?」
「あんなのに付き合えるか」
憤懣やる方ない正輝であった。
◇ ◇ ◇
「行っちゃったわよ?」
「どうにもなるまい? この暗さでは走りトカゲも出せん。しかも、あのスピードだ。とても追いつけんではないか」
「いいわけ?」
せっかく接触までこぎつけたのだが、明らかに腹を立てている様子だった。なだめてどうにかなる感じにも見えない。
「いいもなにも、そのまま報告するしかあるまいな。我らには任務もあることだし」
「あーらら、可哀想。手配書が出ることになりそう。これで晴れてお尋ね者ね」
「実力のほどまでは確認しておきたかったんだがな」
ウフルバは休憩を続けろと手を振った。
◇ ◇ ◇
バイクで夜闇を切り裂く。少し離れて宿営していたが、走ればすぐそこに森が迫る。一歩手前で停車した。
「どうなさるんですか?」
「あれがいるんだろ? 八つ当たりさせてもらう」
「選ぶ相手が少し問題ですけど」
人間相手に鬱憤をぶちまけられない。それこそお尋ね者ではすまなくなってしまうだろう。ほんのわずかだけ残っていた理性が拳を留まらせた。
「いいか?」
「はい」
「ビルドイン!」
変身した正輝は夜の森へと突入した。
次回『決断のとき(1)』 「今の俺を止めるのはルキにもできない」




