ジーギラ戦士団(2)
うなっていた森狼たちが駆けてくる。相手は人間より大きい野生動物、まともに衝突したら確実に負ける。しかも、ギルドの戦士は十人ほどに対し、狼は二十頭もいる。
勝負にならないと気構えをしたところで、ジャンプした狼が空中で「ギャン!」と鳴く。走ってきたものも次々と悲鳴をあげては足を止めた。
(念動力攻撃。つまり、こっちでの魔法か)
後衛の魔法師が攻撃を開始したのに正輝は気づいた。
しかし、一撃でとはいかない。近づかず、殴ったような衝撃を与えただけで致命傷に至るわけがない。せいぜいが動きを止めるだけ。
その隙に戦士が斬り掛かっていく。重たい長剣を肩に担いでは振りおろし、確実なダメージを刻んでいく。それで戦力比は五分というとこだろうか。
「いや、ちょっと重いか」
「しかし、これくらい退けられねばメタルビースト相手にはなにもできん」
いつの間にかウフルバが横に来ていた。
振るわれる長剣は普通であれば短時間に何度も攻撃できるような重さではない。実際に斬り掛かれているのは念動で軽くしているからであろう。そして、斬る瞬間だけ元に戻している。それでダメージを大きくしているのだ。
「重量コントロールとは器用なもんだな」
「なにを言ってる。君とて戦士だろう?」
「いや俺はねん……、魔法が苦手でね。変身前はろくに使えない」
教えると戦公は驚いた顔になる。
装鎧戦士になるには試しが行われると言っていた。おそらく、その条件の中に念動の強さも含まれていると思われる。
「マサキってば、それで剣の一本も下げてないわけ?」
「ああ、使えなくはないけど重いものはな。普段使いならこれで十分さ」
「ナイフ? そんなんじゃ役に立たないじゃない」
「そう思ってて構わない」
シュミクには残念なものを見る目で蔑まれた。そんなのは気にならないくらいに気持ちが冷めてきている。
「抜かれるか」
「だらしないわねえ」
魔法師が周囲の地面を使って尖った円錐を生みだす。それを礫のように放ってダメージを重ねるが、森狼に俊敏に躱されることも多い。どれも決定打にはならないようだ。
空気を加速させた風の魔法は命中率がいいが威力で劣る。だんだんと狼のほうが優勢になって前進してきた。
「この程度であたしたちの出番が来るようじゃギャラは出ないわよ!」
シュミクが発破をかける。
「勝手言いやがって!」
「必死なんだぞ!」
「うがっ!」
一人が肩に噛みつかれた。相打ちとばかりに下から喉笛に剣を突きたてる。一頭仕留めて突き放すものの次の一頭が足を噛んで引きたおす。そこに群がってきた。
魔法師は戦士に当たる攻撃もできず無力。周囲の数名が救助に向かって狼を引き剥がした。血だらけになってうめく戦士が引きずられてくる。
「魔法込みでどうにか持ち堪えてるようにしか見えないじゃん」
「そのとおりだ。逆に魔法を普段使いしない君のほうが不思議に思える」
「俺には変身がある」
簡単なことのように言うのが不審なのだろう。ウフルバは訝しげに見てくる。しかし、正輝にしてみればこれほどの肉食獣相手に生身で挑むのなど狂気の沙汰にしか思えない。
「だが、リミットが……」
「武器は武器さ」
自由に使えなければ利用価値が下がる。そこに意見の相違が生まれていた。
何人か噛まれているが、森狼側にもダメージが蓄積されてきた。六頭ほどがすでに倒れている。魔法師が一斉に土錐を浴びせたところで向きを変えて森に逃げ帰っていった。
「被害が大きいな」
「申し訳ございません。力及ばず」
テノコトが詫びている。
「これでは突入は無理だ。負傷したギルドの戦士に回復促進剤を与えて休ませろ。今夜はここで宿営して回復を待つ」
「ご命承りました。直ちに準備をいたします」
「ゆっくりでいい」
鷹揚に応じたつもりだろうが、負傷者を除いて半分になった戦士にテントの設営をさせるのだ。ウフルバも所詮は権力者側の判断しかできていない。
負傷した戦士は薬を与えられ地面に寝転されている。重症の者には装鎧少女たちが再生能力を使って回復を促している。
「ああやって助けられていたって感謝の一つもしないんだろうな」
「あの子たちの役割だと思われてますので」
こっそりと訊くとエメルキアが教えてくれる。
「どんどんモチベーションが削られてく気分だ」
「我慢してください。一応は王国との交渉の道もなくはないのですから」
「そういえば、そんな話も残ってたか」
うんざりしてくる。戦士団と一緒にいるだけでストレスでしかない。頭痛がしかねないほど嫌気が増す。
「森狼がこんな浅い位置まで出てきているということは、メタルビーストが中心に居座っている可能性が上がったな」
「明日には突入して狩りましょう。時間を費やせば、メンバーに脱落者が出てきて任務に支障が出かねません」
「確かにな。宿営地ができたら皆を休ませろ。明日に備える」
「御意に」
ギルドの負傷者にも魔法師にもほとんど配慮が感じられない相談が行われている。こんなんで王国の治安が守られているのだから、文化というものは怖ろしいものだ。
(日本だったらとっくに見限られてるぞ)
正輝は辟易しつつエメルキアたちと場所取りをした。
次回『ジーギラ戦士団(3)』 「なんのこと?」




