ジーギラ戦士団(1)
ウフルバ率いる戦士団は目的の街に到着する。そこは半壊状態だった。壊された家屋の数々。道端にはうめく怪我人が粗末な毛布の上に寝かされて並ぶ。
泣きながら親を探す子ども。面倒を見る余裕もない大人たち。男は瓦礫を掘り返すのが精一杯で、女はなけなしの食料を融通し合うのに夢中。
(これこそが正義が行われるべき場所。それなのに、戦士団はなにもしない)
冷めた目で眺めているだけなのが正輝は面白くなかった。
「君のお父さんとお母さんは?」
思わず歩みよって子どもに訊くと指さした先は瓦礫の山だった。
「待ってろ。今変身して助けだすから」
「待て、マサキ。救出作業は近隣の街から衛兵が動員されている」
「どう見たって手が足りてないじゃんか! あんたが率先して指示を出せよ!」
睨みつけた。
「我らの任務はメタルビーストの討伐。街のことは別に担当がいる。有限の力をこんなとこに使うな」
「ここで使わなくてどこに使うんだ?」
「無論、こうなった原因の排除である」
間違ってはいない。しかし、正しいとも思えない。他の装鎧戦士も動こうとはしない。吠える彼を処置なしという感じで見ている。まるで、こじらせた正義感を嘲笑うかのように。
「落ち着いて、マサキ。メタルビーストの話だけ聞いて、早くこんな場所さよならしよ」
シュミクが宥めるように言う。
「なに言ってる。ライダーの……! 装鎧戦士の力は弱きを助け強きを挫くために使うべき!」
「はいはい、そのとおり。だから、強きを挫きに行くんだから」
「聞く耳なしか」
ウフルバの指示に逆らえば揉めること間違いなし。正輝は、懸命に働いている街の男を強引に連れてきて証言させるギルドの戦士を咎めることもできない。噛んだ唇から血が出るかと思うほどだった。
「マサキ」
怒りに震える拳をそっと包む小さな両手。
「嫌悪するでしょうが、これも現実です。人間社会が役割分担で成り立っているのはあなたのほうがご存知では?」
「しかし、こいつは……」
「彼らにとって変身が有限な力というのも事実ですので」
今でこそなにも言わなくなったが、最初の頃エメルキアも変身の回数や頻度をしきりに気にしていた。限度を超えれば装着者に問題が出るからだ。このあと移動して、いきなりメタル進化種に遭遇したとき変身できなかったり、全力が出せない状態では本末転倒なのである。
「こんな無力感、久しぶりだ。俺は驕ってるのか?」
「なにが正しいかは人それぞれです。わたしはマサキの熱さが好きですよ」
正輝は出発の号令が掛かるまで口を一文字に引き結んで立ち尽くしていた。
◇ ◇ ◇
王国戦士団はメタル進化種がひそんでいるであろう森の手前で停止する。いよいよいつ遭遇するかわからなくなる状況を前に休憩するためだ。
「各自休め。食事なども許す」
テノコトが触れている。
「ウフルバ様、こちらに」
「ごくろう」
大きめの石に敷物を掛けて座る場所を作る。戦公はそれを当たり前に受けていた。ただし、装鎧少女は後ろに立たせたままだ。
「しんどい。主に精神的に」
ジノグラフの常識が彼を痛めつける。
「休みましょう」
「マサキ、飴ほしいー」
「そうだな」
商館で買った飴がまだ残っている。エメルキアの口に放り込み、ロナタルテとティナレルザには持たせる。小妖精には一抱えもあるものだ。彼は思いついて立ちあがった。
「いいですかい、戦公殿」
テノコトの目を気にする。
「どうした、マサキ」
「如何に戦具といえど、別に戦公殿の剣にべたべた触ろうってんじゃないから見逃してくださいよ」
「なんだ?」
ウフルバの後ろにまわって装鎧少女の前に立つ。飴を差しだして、口を開けてみせた。一瞬、なにをされているのかわからない様子だったが、釣られて口を開ける少女。そこに飴を押し込む。
「な?」
無表情だった少女の顔がわずかにほころんだ。ウフルバたちから見えない位置で彼女の右手を左手で握る。一気に大量の精気を流し込んだ。すると、その目が真ん丸に見開かれる。頬が上気し、瞳に感謝の色が浮かんだ。彼はただ頷く。
側近テノコトの装鎧少女にも、そして他の装鎧戦士の少女たちにも同じことをしてまわる。四人目あたりから待ちわびている気配があった。瞳にも輝きが戻っている。
「物好きな」
「なんとでも言ってくれ」
正輝はもう開き直っていた。
◇ ◇ ◇
森まで到着するとギルドの戦士たちが車から降りてきて前に列をなす。その後ろに魔法師が陣取った。まだ変身していない装着者が最後尾に付く。
「全隊、隊形を維持しつつメタルビースト捜索に入る。進め」
号令に合わせて前進が開始される。
ところが、森に入る前になにかが飛びだしてくる。全身は灰色に近いが、たてがみあたりから背中にかけて青っぽい色をした狼の群れだった。
「でかくね?」
「メタルビーストでもない、ただの森狼だが?」
「平均サイズなわけね」
ただし、体長は2m半を超えているだろうか。その森狼が二十頭はいる。ギルドの戦士に緊張が走った。
「排除しろ。魔法師は加減しつつ援護」
テノコトの命令は無情である。
「任せる?」
「装鎧戦士の出番ではない」
「左様で」
正輝は様子を窺うことにした。
次回『ジーギラ戦士団(2)』 「しかし、これくらい退けられねばメタルビースト相手にはなにもできん」




