エルフィンの秘密(4)
「ところで、つかぬことを聞くんだけどさ」
「なんだ?」
正輝は側近の男が最後尾で警戒に当たっているのをしっかりと確認してウフルバに接近する。昨夜も機会を窺っていたのだが、戦士団のシュミクという女性がなにかにつけ絡んできてどうにもならなかった。思わず声を荒げそうになる勢いでくるから堪らない。
「あんたってジノグラフ、いや、王国のでいいや。歴史に詳しい?」
貴族のような階級であればそれなりに教育も受けているはず。
「細かいのは忘れたが主だった部分なら」
「助かる。で、あんたたちはなんでそうなんだ?」
「もっと具体的に頼む」
わざとぼかしたのだが伝わらない。
「装鎧少女の扱いのことだ。今だって荷物のようにしてる」
「これか?」
「そうだ。落ちないためにしても、鞍の握りに手を結びつけるってのはどうなんだ?」
両手首に巻いた革紐を鞍の握りに括ってあるのだ。朝、出発前にそんな作業をしていて、彼は目を剥いたのだ。
「括り付けないと落ちる。君が今言ったとおりだが?」
黄緑の瞳の装鎧少女は鞍に繋がれて揺られている。
「そんな奴隷みたいな扱いを」
「聞き捨てならんな。コタカッタ王国では奴隷は禁じられている。戦士たるもの、人にそんな扱いは絶対にしない」
「装鎧少女にも同じ扱いができないのかよ」
盛大にため息をつく。
「わからんな。君だとて、道具はどこかに縛るのではないか? 落として困るものならな」
「そのダイナミックな矛盾にどう折り合いをつけてるんだか。落として困る相手を大事に扱えないのこそ俺には理解できない」
「そうだな。私にはマサキのような装鎧少女を愛玩する趣味はないということと理解してくれ」
正輝の態度をペットに対する愛情のように受け取っている。歪みもここまでくると立派なものだ。呆れてものが言えない。
エメルキアも彼らの前では発言を控えている。不用意に意見などしようものなら体罰にいたる装着者もいるらしい。それが、別の戦士の装鎧少女だとしても。
「正気の沙汰とも……、いや、いい。ただ、その割り切りの根拠くらいは知りたいと思ってね」
エメルキアなら知っているかもしれないが本人の意見も聞きたい。
「装鎧少女が神から賜った戦具だからだ。まさか、知らないとは言うまい?」
「知らない。薄々感じてると思うけど、俺はとんでもない田舎者で大陸の王国のしきたりに明るくない世間知らずなのさ。だから、あんたたちの行いが奇異に映ってる。わかってくれるか?」
「なるほど。やはりそうだったか」
ウフルバにも思うところがあった様子だ。
「会ってから以降、いろいろと考えてみた。もしかしたら、君は海の向こうの大陸出身なんじゃないかとね。だから、デレキセント教の教義に通じてない」
「そんな感じかな」
「デレキセント教の神は危急の際に当たって我々人間に打破するすべを賜われた。それが装鎧少女である。だから、人類は神の戦具を管理する責任がある」
突飛な発想が語られる。大陸人類はデレキセント教という宗教らしきものを信じていて、その教義にある装鎧少女の意味を鵜呑みにしているのである。
真実はゼアネルヒが語ったように、滅びゆこうとしている人類に妖精種が手を差し伸べた。しかし、彼らはそれを神の施しとして受け取ったのだ。その根底には人間至上主義の思想が見え隠れする。
(そこを上手に突いて、教団の権限を拡大させようと図ったな。宗教家のやりそうなことだ)
正輝は真実にたどり着く。
ただし、そのまま説得しようとしたとて彼らは絶対に聞きいれない。狂信者でなくとも、信者というものは理論的な回答など不要なのである。
(妖精種の進化上の話なんぞ聞く耳持たないだろうさ。もしかしたら、彼女たちのほうが人類より古い種族かもしれなくてもね)
正輝はそう予想している。
「神より賜った戦具だからこそ、選ばれた人間しか扱えないとか?」
「わかっているではないか」
一言のもとに肯定する。
「君のそれは違うのかもしれないが、我らは自らを鍛え、試しを受けたうえで装鎧少女を賜る。人類にとって契りを交わすのは試練の一つなのだ。試練を乗り越えた者が人類を守る戦士となれる。メタルビーストと戦うのはその瞬間から義務となる」
「大層なことだな。俺の住んでたとこじゃそんな考えはないんでね。人と妖精種は対等に生き、彼女に愛された者だけが力を得られる。人と妖精種の絆を守る戦士だ。俺たちはたぶん、お互いに奇異な目でしか見れそうにないな」
「それでは困る。コタカッタ王国では生きていけないぞ。いや、大陸全土でも無理だろう。デレキセント教団はすべての国に支部を置いている」
嫌な情報を教えられた。
「そりゃ面倒だ。田舎者はさっさと帰れって言われかねないな」
「そうではない。君がデレキセント教に帰依するまで帰してくれないかもしれない」
「遠慮したいね。戦公殿の差配でどうにかしてくんない?」
「それこそ無理な話だ。教団は陛下にさえ影響力を持っているからな」
(重症だ。洒落にならない感じだな。妖精種が生きていくにはあまりにも環境が悪い。さて、どうしたもんか)
正輝にも打開策が見当たらなかった。
次回『ジーギラ戦士団(1)』 「ここで使わなくてどこに使うんだ?」




