エルフィンの秘密(3)
強くなりたいという思いは正輝にもある。強ければ強いほどエメルキアたちを確実に守って喜びと笑顔で暮らせる世界に変えられるのではないかと。
しかし、それとエメルキアを情欲の対象とするのは違うと思う。例え少女が望んでいるにしても、本当に彼女をそういう相手と見なせるほどに愛していなければ失礼だと感じているのだ。
(愛しいとは思ってる。でも、俺が強くなるのが目的でルキを抱いたりなどできない)
それが本心であった。
「考えとく。同じ言葉のくり返しになるが、俺の中で割り切りができない」
「それほど大切に思ってくれるあなただからこそ、です。無理は言いません」
「ルキは本当に幸せね」
「うん、うらやましー」
多少は残念に思ってるのかもしれないが、その宣言で喜びを与えられるなら今はそれでいい。より多くの装鎧少女を解放できる手段だとしても、自分が許せなくなるだろう。
「ってことはさ、ロナやルーザもかなり優秀な部類?」
「気づいた?」
ロナタルテは青緑の瞳をしている。ティナレルザも完璧に緑色だ。二人ともかなり青みが強い色合いである。
「私でさえ、人間の男の見る目が半端じゃなかったの。契りという意味でも繁殖形態へシフトさせようとする意味でも。ルキの環境なんて想像を絶するわ」
ティナレルザのそれは痛ましいものを見る目だった。
「あまりの恐怖感で取るものもとりあえず逃げだすのが精一杯でした」
「そうか。それで逃げてきたゼアネルヒ様はルキを匿う意味でも島を禁域にしたんだな。あー、思い出した。ゼアネルヒ様も純粋な碧い瞳だった」
「ええ、あの方やルキを見たとき、とっても驚いたもの。十年に一度生まれるか否かって個体が二人も揃ってるなんて」
そういえば、確かにエメルキアを見て絶句していた。
「するとさ、ロナもルーザより希少な感じ?」
「ええ、結構稀ね」
「優秀には見えないんだけど?」
「どういう意味ー?」
ロナタルテに頬をつねられる。笑いが巻き起こって空気が変わった。重大な秘密を打ち明けられたものの、それを利用する気が彼にはない。
「優秀というのは、魔法強度と変身時のバフレベルの話であって、個体の明晰さとは無関係です」
「ルキもひどいー。ロナはとっても優秀ないい子なのにー」
「わかってるわかってる。ロナは本当にいい子だな」
「えへー」
撫でられれば、ころっと機嫌が良くなる。単純明快な小妖精でも、彼らにとっては大事な家族なのだ。
「で、ルキの優秀さと自我境界の関係ってあったりする?」
「比較できるようなものではないのでわかりません、でも、マサキの場合は個人の自我強度がかなり強いのだと思ってます」
「そうそう、私も融合中に装鎧少女と話せる装着者の話なんて聞いたこともないし」
この現象だけは誰も事例を知らないという。ましてや、ジノグラフにやってきて間もない彼にわかるはずもない。
「だから、マサキは特別だと思ってます。多重融合くらいは平気なほどだと」
「確かに根拠としては強いわ」
「まあ、そのときはそのときさ。今んとこ相手もいないんだし。誰かと契りを交わしたら固定だろ?」
「はい。経路を閉じるには装着者が致命傷を負うか、あるいは即死するくらいでないと」
怖ろしいことを言う少女にマサキはおののいた。
◇ ◇ ◇
(なんなの、あれ)
シュミク・ジュレスは呆れかえる。
指示書の対象者をウフルバが捕捉したと聞いて手柄が増えたと思った。あわよくば籠絡して、それ以上の成果が得られる可能性も思い浮かんだほどだ。
それなのに、当のマサキは彼女に一片たりとも興味をいだいていない。戦士として鍛えているのでたおやかさとは無縁でもスタイルは悪くないはず。容姿だって自慢である。
(あたしを見て鼻の下を伸ばさないなんて信じらんない)
食指を伸ばさないどころか眼中にない。視線はいつも自分の装鎧少女に向いている。まるで、そういう侵食を受けて操られているかのように。
(まさか、装着者を操る装鎧少女なんてのが出現したっていうの?)
装着時に自我侵食を受けるのは必ず人間側。適性次第では、わずか一度の装着で自我崩壊を起こす者さえ出る。そうなれば廃人だ。
いかな装鎧少女でも解除のときに脳まで修復はできない。失われた自我は二度と戻ってこない。敗者の末路は悲惨である。寝たきりで、口に入れられたものを嚥下するのがせいぜいに成り下がってしまう。
(リスクの高い関門を突破してどうにか今の地位を手に入れられたの。それなのに、このあたしでなく、危険な装鎧少女のほうを選ぶ? 気が知れない)
マサキの行動は異常極まりない。
(はっきり言って好みの顔だっただけにショック。こうなったら、あたしの魅力で正常に戻してやらないと)
機会はまだ十分にある。討伐行はこれからだし、その先は王都までの護送がある。その間に関係を持って、彼女から目を離せないようにしてやろうと思った。
「全隊停止!」
戦公側近のテノコトが号令している。
「前方の窪地手前を今夜の宿営地とする。戦士ギルドのメンバーはテントの設営をするように」
「へいへい」
「俺らのお仕事、そんなんばかり」
むくつけき男たちは彼女に秋波を送ってくるものの、肝心の男はさっさと乗り物を置いて装鎧少女の座る敷物を出している。まるで、かしづいているかのように。
シュミクはそれが面白くなくて仕方なかった。
次回『エルフィンの秘密(4)』 「で、あんたたちはなんでそうなんだ?」




