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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ジノグラフの常識

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ジーギラ戦公(3)

「俺の信用を得たいんだよな?」

「可能なら」

 正輝の質問にウフルバ・ジーギラ戦公は即答する。

「あんたは要職にあるってのに、俺のこんな物言いに文句一つ言わないあたりが悪くない印象だ」

「こちらは請う立場だからな」

「だったら、もし、そっちの少女を椅子に座らせて同じ食事をさせろと言ったら?」


 ウフルバは彼がなにを言ったのかまったくわからないふうだ。つまり、後ろに立たせている装鎧少女(エルフィン)の人権を根本から否定している。


(それじゃ、信用したとしても信頼はできないってのもわからないだろうな)

 戦公もジノグラフの常識から逃れられない。


「それはどういう意味だ?」

「聞き流してくれ。別にいい」

 説いて聞かせる気もない。

「で、提案ってのは?」

「さっきも話したが、私の戦士団はこれから東の森に向かって、出現したという変異型メタルビーストを討伐せねばならん」

「苦情があがってるか」

 王国が戦力を派遣したのは治安行動だ。

「それに同行してくれ。メタルビースト討伐に協力を請う。結果如何で、私が臣公会議に君の身分を保証しよう」

「王国にとって俺の存在がマイナスではないと証明しろって言うんだな?」

「そう受け取ってくれ」


 間を取るように料理に手を伸ばす。非常に洗練された高級料理だと思った。ジノグラフに来てから初めてかもしれない。


(こういうものをルキや皆にいつも食べさせてやりたいな)

 叶わぬ願いだろう。

(多少でもそういう環境を作りたければ、今の半ばお尋ね者みたいな立場は非常に面白くない。せめて、追われない状況を作るには乗るしかないか)


「悪くない話だ。身分保証ってのは十分に効力があるんだろうな?」

 前提がしっかりとしていなければ話にならない。

「ジーギラの家の客分として扱おう。王命がなければ臣公クラスでは手が出せない」

「リスクが残ってるじゃないか」

「王に目を掛けられたくば自身で証明してみせるしかないな」

 ヒエラルキーに逆らえないのも当然か。

「道は険しいな。それくらいやってみせねば呑気に旅もさせてくれないってか」

「その旅の目的を明かしてくれないかぎりはな」

「言っても詮無いことだ」


 装鎧少女(エルフィン)に関する提案に反応できない時点で難しい。大陸の人間は全員が常識に毒されていると思うべき。


「わかった。乗る。それでこの場は解放してくれるか?」

 まずは大前提が叶わなければならない。

「逃げるのは構わん。ただし、逃げれば確保指示書は撤回されんと心得ろ」

「だな。地道にいくか。時間と場所を」

「二日後、この場所だ」


 ウフルバがメモを寄越した。エメルキアがくれた知識で読み書きもできるようになったので不便はない。


「マサキー、ルキに言ってきたー」

 小妖精(リトルエルフィン)が戻ってくる。

「どこに隠れてるかわかってるよな?」

「近くで様子見てるー」

「バラすな。仕方ないやつだな」

 失笑する。

「そういうやつにはお仕置きだ」

「ひー! むぐ……」

「美味いだろ?」

「おいひー」


 口に放り込まれた料理をもぐもぐしている。表情が蕩けていた。幸せそうに肩に留まる。


(こういう行動の意味がわかる相手ならよかったんだけどさ)

 ウフルバは不審な面持ちになっているだけ。


「約束は守るつもりだ。あんたが妙な仕掛けをしてこないかぎりは」

「それくらいは保証しよう。待っている」

「善処する」


 来た道を戻ると、商館の店先付近には商品が並んでいた。サンプルのような扱いなのだろう。買えるかどうか訊いてみる。


「戦公様のお客様であればさしあげますが?」

「借りを作りたくない。買わせてくれよ」

「そうおっしゃるのであれば」


 約束どおり、菓子や飴のようなものを包んでもらう。そうしていると、ウフルバも階段を降りてきた。


「まだいたか」

「野暮用。おいで」


 彼の装鎧少女(エルフィン)を手招きすると、その口に飴を一つ放り込む。少女は面食らった顔をしていた。


「またな」

「…………」


(ヒントだけは十分に見せたんだが、リアクションは期待できそうにないか)


 正輝はロナタルテに案内されてエメルキアたちと合流した。


   ◇      ◇      ◇


 ウフルバは指示書にあった黒髪の装鎧戦士(エルフィンアーマー)の行動原理がまったく理解できなかった。ただし、想定を遥かに超えて頭のまわる男だというのは把握する。マサキには必要以上に目配りせねばならないだろう。


(手の内に入れただけでも今はよしとせねばならん。あれは別の意味で危険だ)


 こちらの思惑を先まわりして読んできた。その聡明さこそを警戒すべきである。その気になれば出し抜くのも可能だということ。


「戦公様」

 配下が報告にやってくる。

「どうした?」

「件の男の宿が判明いたしましたが、すでに移動しておりました。引き続き調査いたします」

「マサキなら先ほど接触した」

 配下は瞠目する。

「……さすがは戦公様」

「偶然だ。討伐行に同行する約束を取り付けている。調査は中止でいい」

「ですが」

「侮るな。私と接触したことで、今頃宿を変えている頃だ。足取りを追っても捕まらん」


 抜け目ない男だ。この広いヘンレケの都を走りまわらせる手間を省くだけ。配下を疲れさせれば肝心の討伐行に影響が出る。


(それに、マサキはおそらく約束を違えない)


 ウフルバは黒髪の男の言動からそう予想した。

次回『ジーギラ戦公(4)』 「おこぼれでもいいかもー」

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