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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ジノグラフの常識

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ジーギラ戦公(2)

「こんなところで立ち話も周りに迷惑だ。河岸を変えよう」

「賛成だ」


 ウフルバの言うとおり、注目を集めはじめていた。正輝にとって面白くないことこのうえない状況になりつつある。


「静かに話せるところにする。ついてきてくれ」

「いいだろう」


 戦公の走りトカゲに随伴して行き着いた先は飲食する場所ではなく商館のような建物。彼が何事か言い含めると、出てきた主人らしき人物がへりくだった態度で応対する。ウフルバの鎧に刻印されている紋章は王国のものか彼の家紋か。身分保証に繋がるようだ。


「君の装鎧少女(エルフィン)はどこにいる?」

「……そういうことか」

 正輝は警戒の距離のまま。

「ロナ、ルキのところに飛んで、すぐにその場を離れるように言ってくれ。俺が迎えに行くまで危なくない場所に隠れてるように」

「あ、あーい」

「本当に小妖精(リトルエルフィン)を連れているのだな」

 飛んでいくロナタルテを目で追っている。

「私がなにもしないと保証しても駄目か?」

「無理だな。あんたが俺を、どこかの国が破壊工作をするために送り込んだ装鎧戦士(エルフィンアーマー)だと警戒する程度に、俺はあんたの言葉を信じていない」

「実に聡明だな」


 ウフルバはくつくつと笑っている。肩をすくめてこちらを見るが信用するに値しない。一挙手一投足から目を離せないでいた。


「あくまで個人的にだが、臣公会議が言うように君を他国の装鎧戦士だとは思ってない」

 戦公は案内されたテーブルに着き、彼も座るよう促す。

「もし、そうなら正体を明かしてまでドニニー村を救う必要はない。まったくもって迂闊な行動ってことになる。今、私が下した聡明だという評価に反するな」

「違いない。でも、だからって疑いは消せない。ここで時間稼ぎしたあんたが部下を動かして俺の装鎧少女(エルフィン)を確保しようとするくらいの権限はあるという知識はある」

「仕方あるまい。信用というのは時間を掛けて醸成するものだ」

 いつでも立てるよう深くは腰掛けない。

「他国のスパイであれば、絶対に装鎧少女を身近に置かないわけもないしな。私のように」

「もっともだ」

「まずは話そう」


 テーブルに両肘を突いて顎を乗せている。その表情に浮かべた微笑みは絶やさないまま。警戒を解こうとしているのは本当と思えるも、迂闊には乗れない。


(目的は俺がどこから来た装鎧戦士か聞きだすこと。こいつが頷ける答えを持ち合わせていれば話は簡単。でも、パムール島のことは絶対に明かせないしな)


 今の正輝は明確に理解していた。ゼアネルヒが作った島という禁域は、人間から妖精種(エルフィン)を守るためのもの。話に聞いた妖精種ハンターや、国の戦力から装鎧少女(エルフィン)候補を保護する目的で設定した場所。


(いわば楽園。俺が感じた印象も当たってたってこと。それだけに知られてはいけない)


 特に、前に座っているような王国の要職にある人物には。上手な方便を使えればいいのだが彼にはまだそれだけの見識がない。下手な言い訳はボロが出る。


「現時点で言えるとしたら、俺はコタカッタ王国に対する害意はない。今のところと断っておくが」

 本当のことだ。

「こちらにも、その言葉を信用する義理はないだろう?」

「違いない。どう言えば俺を見逃す気になる?」

「無理だな。王国からの指示書には逆らえない身の上だ。だが、君を無力化するすべもないまま王都の、それも中枢へと送り届けるのはさらに危険だとも思ってる」

 窺う視線は鋭い。

「なんでだ?」

「私でも、装鎧戦士(エルフィンアーマー)二体を擁する盗賊団をわずか一人で制するのは手こずる。君のように圧倒できはしない」

「相手が無警戒だったからさ。ペースを完全に奪ってしまえば制圧の道筋は作れる」


 そういう思考ができる相手だと思った。ティナレルザに聞いた範囲では、戦公というのは将軍にして戦士という職にあるはず。貴族のような血筋に左右される立場とはいえ、よほど王国が腐っていないかぎりはそれなりの人物を配置するだろう。


「君の評価は右肩上がりだよ。それだけに敵対したくないとも思ってる。わたしの提案を聞いてほしい」

「いいだろう」

 でなければ話が進みそうにない。


 ウフルバが手配したか、使用人らしき女性たちがやってきて料理を並べていく。食べるよう促してくるが、迂闊に手を出すわけにはいかない。黙って見ていたら、彼は自身の前に置かれた皿と正輝のそれを入れ替える。そして頬張って見せた。


「豪胆だな」

 さすがに吹く。

「そうでもなければ戦公などやっていられないのだよ。配下を統率するには、まず信頼を得ることからだ」

「わからなくもない。俺はそういう上下関係のある職責じゃなかったから、あくまで想像だけどな」

「そうやって、気安く話してくれなければ私としても次に移れない。だったら、なんでもしよう」


 相手の配慮に応えることにした。目の前の皿の中身にフォークを伸ばす。どうやら、高級な肉料理のようだった。


「うん、美味い」

 舌をうならせる。

「骨を煮出した出汁の煮凝りかなんかで固めたものだな。これは手間暇が掛かってる。それなりの店じゃなきゃ出せないか」

「舌が肥えてるな。ますます君を放置できなくなった。いったいどこからやってきたんだか。まったく足取りが掴めてないうえに、使っている道具まで発想にないものばかり。警戒するなというほうが無理だろう?」

「そればかりは否めない」


 正輝は行儀悪くフォークで相手を示した。

次回『ジーギラ戦公(3)』 「そういうやつにはお仕置きだ」

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