ジーギラ戦公(1)
正輝がヘンレケの都に残っているのは、ともかくエメルキアにいい服を着せたいがためだった。しかし、服屋に連れていって、いろいろと着せてもあまりいい顔をしない少女。
妥協したくないので問いただすと、結局は今の服装が楽で好きだという。結論として、同じデザイン、少し洗練された色ムラのないカラーに指定して仕立てさせることにした。
(それでもう六日目か。宿は変えたから疑われたりはしないだろうけど、変な癖をつけてルールをおざなりにしたくないもんだ)
そうは思うも、まず少女がまるで物のように扱われる記憶を掻き消すほどの待遇を与えたい。それが彼を意固地にしていた。
「金を積んでやらせればやったと思うけどな」
「店主の渋面を見たでしょう? 無理を言えば、それだけ目立ってしまったはずです。マサキの本意じゃないと思うんですけど」
「それを言われるとな」
本当はロナタルテとティナレルザの服も仕立てさせるつもりだった。ところが、服屋の店主はそこに至って難色を示す。彼がゴリ押ししそうになったところをエメルキアに止められたという経緯がある。
「あんなじゃなければルキが針仕事なんてしなくてすんだのに」
「いいのです。わたし、そんなに嫌いでもないので」
「嘘じゃないみたいだな」
今は買った生地を使って小妖精二人の服を縫っている。当人たちも手伝ってそんなに時間は掛かりそうになかった。正輝としても強くは言えないところ。
「ロナと出掛けてくる。ちょっと派手に使ったから、鍛冶工房かなんか探して金材が手に入るかどうか当たってみる」
「そうですね。万が一があっても、1km圏内くらいでしたらキーワードで変身できますので」
「ああ、気をつける」
最近はエメルキアも融合のことを変身と言うようになってきた。彼の口癖が移ってきたようだ。いい傾向である。
「よっこいせ、と」
バイクを引っ張りだす。
麦粉を仕入れていろいろと手狭になってきたのでバイクにリアボックスを取り付けた。そこになら少しは金属材料を入れておける。
「サイドカー付けたくなってきた。でもな、ライダーっぽくなくなるし」
「さいどかー?」
ロナタルテが首をひねっている。
「気にしなくていい。それより、走らせられるか? 精気なら俺から好きなだけ引きだせばいいから」
「ルキみたいに早く走らせなくていいならー」
「大丈夫だいじょうぶ。街中でスピード出さなくていい。金属買えたとき持ち帰るのに大変なだけ」
「そっかー」
いつもどおりロナタルテをシャツの胸元に入れてまたがる。プロペラの音はそれほどではないがクラッチを繋ぐとそれなりに走りだした。
「いいぞいいぞ。頑張れ、ロナ」
「もう平気ぃー。回しはじめが魔法いっぱい使ったー」
「ありがとな。甘いお菓子も買って帰ろう」
「やったー!」
これだけの規模の都であれば、やはり鍛冶工房があった。宿の主人に聞いた場所を目指して走る。程なく見つけられて交渉したら、都合のいいことに砂鉄を買える。金材として地方の川で採れたものを運ばせているらしい。
「いい買い物ができた。さあ、次はお菓子の番」
「いっぱい買ってー」
「はいはい」
今日ばかりは我儘を咎められない。
店を探して通りを流していると反対側から走りトカゲがやってくる。正面から見るとさらに凶悪であった。小妖精は顔まで引っ込めてしまう。
やれやれと思いながら離合しようとしたところ、いきなりその走りトカゲが前を遮ってきた。正輝は慌ててクラッチを切ってブレーキを掛ける。ぎりぎりで止まった。
「おいおい、勘弁してくれ。追突したらお互いにただじゃすまなかったぞ?」
「君は、マサキという名だな?」
「あん?」
唐突に言い当てられる。警戒心がいきなりレッドゾーンまで跳ねあがった。まだ、変身するほどのシチュエーションではないが、場合によっては逃げだす準備をする。
「案じるな」
表情が険しくなったのを見咎められた。
「私はウフルバ・ジーギラ。戦公をしている。ヘンレケの都には王国の指示で戦士団を率いてきている。近くに出現した変異型メタルビーストを討伐するためだ」
「その、戦公様が俺みたいな流れ者になんの用?」
「まずは落ち着いてほしいから立場を明らかにさせてもらった。君は……、ドニニー村に現れたっていう装鎧戦士だな?」
後半は声をひそめている。派手な大立ちまわりでなく、密かな接触を求めているという意思表示であろう。警戒心は解けないが、話も聞かずに吹っ切るのは余計な疑いを持たれるだけだと思った。
「で、どうしたい?」
相手の出方を見る。
「本当のところを言う。君には王国臣公会議からの召喚指示が出ている。なので、同行を求めたいのだが、私としては任務中であるし思うところもある。まずは君という男を知りたい」
「人違いだ、と言ったところでその指示書とやらには俺の詳細が書いてあったんだろうな。さしづめ、この乗り物を見てピンときたって感じか」
「非常にわかりやすかった」
舌打ちをする。
「迂闊にバイクで出るんじゃなかった。失敗したな」
「『ばいく』というのか。それは脇に置いておくにしても、問題は君が未登録の装鎧戦士であること。その点が注視されている」
「なるほど」
正輝にはウフルバが嘘をついているようには思えなかった。
次回『ジーギラ戦公(2)』 「君の装鎧少女はどこにいる?」




