ヘンレケの都(5)
狩人ギルドを訪問した正輝は早速メタルライトを売り込む。人間社会との関わりを最低限にしたくとも現実には厳しいし、通貨を持たねば首がまわらなくなるのは必至である。
「確かに便利だが、手持ちの灯明にそこまで気を遣うものがいるかどうか」
ギルドの担当者は難色を示す。
「そう思うだろ? ところが、だ。こいつはただの手持ちの明かりじゃない。付属のベルトを使うと腰に固定できる」
「ほほう、なるほど」
「で、この導線が繋がってる指輪を手に嵌めると」
指輪経由で精気をメタルライトに流せば点灯する。それで両手が空くという寸法だった。
「このとおり、ランプやランタンみたいに手に持たなくてもいい。ハンズフリーで両手を使う他の作業もできる」
さすがの担当者も瞠目する。
「これは……、そこまで工夫されてるとは」
「特にあんたたちの仕事は手が使えるってのは重要だろ? 弓だのナイフだの持って、獲物にトドメを刺すのに近づかなきゃなんない。しかも、どの程度動けるか確認しながらだ。獣が活発になる夜闇の中でもそれが可能だとしたら?」
「一度使うと手放せなくなるだろう」
「大事に扱えば、こいつは半永久的に使えるぜ?」
元は自身も狩人であったであろう担当者も納得せざるを得まい。それくらいの付加価値は十分にある製品に仕上げたつもりだ。
「幾らで卸せる?」
具体的な話になる。
「2000、と言いたいところだが、1800ディムで卸してやろう。200はお宅が手数料保管料として取り扱えばいい」
「在庫は?」
「ベルト付きで十個持ってきた。まだ欲しいってんなら明日にはあと十、工面してやる」
原価を思えば暴利もいいところだが、そんな素振りは見せない。これも妖精種たちとの生活のためだ。
「全部まわしてくれ。現金で支払う」
「まいどあり」
細工職人の顔の正輝は如何にもいい商売ができたという感じで握手した。とりあえず十個のメタルライトを渡して代金を受け取る。実はもう一個、サンプルとしてリュックの中に残していた。
「ところで、君は妖精狩りかい?」
担当者は改まって訊いてくる。
「妖精狩り? それはなんだ」
「知らないんなら違うな」
「この子たちのことなら、俺の住んでたあたりじゃ当たり前に一緒に暮らしてるんだがね」
親しさをぼかす設定である。
「いや、狩人の中でも妖精狩りの連中は小妖精を連れていることが多いんだ。流しだから定住はしないが、たまに顔を見せる。話だと、小妖精を連れて森の中に入ると野良の妖精が寄ってくるらしい。それを捕まえるんだと」
「捕まえてどうする?」
「そりゃ、王国とか教団に卸すんだ。わりと実入りはいいらしい」
また面白くもない話を耳にすることにになってしまった。もし、森の中で出会うようなら追い払ってしまいそうだ。
「そんな商売もあるんだな。知らなかった。俺は生粋の細工職人でね。流しでやってるのは同じでも、そいつらとは違う」
「そうなのか。まあ、世の中広い。そういう地方があってもおかしくはない」
「そういうことさ。じゃあ、また明日残りを持ってくる」
狩人ギルドをあとにして作り笑顔を捨てる。胸糞の悪い話を聞いてしまって表情が消えてしまった。
(芝居をする生活をしてなかったら、とうにキレてたかもな)
限度はあるが、どんな精神状態でも取り繕うことができる。
「マサキ、わたしは大丈夫ですから」
「そーそー、マサキが守ってくれるもん」
「傷つかないって言ったら嘘だけど、最近はそんな気にならなくなったわ」
逆にエメルキアたちに慰められるようではいけない。まずは生活基盤を整えることから始める。それにはまだまだ知識が必要だ。
「メタルライトもいずれ模倣される。次を考えておかなきゃな」
「そんなに早くにです?」
「例えば、風防ランタンも腰に付ける構造にだって工夫できなくもない。アイディアっていうのは高く売れるが、暴落するのもあっという間」
少女の肩に置いた手を寄せる。脇にしがみついたエメルキアは嬉しそうに見あげてきた。守るべきは自身のプライドなどではない。その愛しい笑顔だ。
「次は戦士ギルドに行ってみる。稼げるうちに稼いでおくさ」
正輝はリュックを揺すりあげてヘンレケの道を歩いた。
◇ ◇ ◇
「これは?」
「メタルライトというのだそうです」
ウフルバ・ジーギラは側近の持ってきた物に見入る。使い方を教わり、思いの外明るく照らす特殊な道具に感嘆した。
「便利なものだな」
「はい、ヘンレケで手配したギルドの戦士の一人が自慢げに見せてきたので借りてまいりました」
付き合いの長い側近だが、あまり余計なことをしないタイプだ。
「で?」
「これを戦士ギルドに持ち込んだ細工職人が小妖精を連れていたのだそうです」
「む?」
なにが言いたいのか気づいた。彼が目にした王国からの指示書に該当する人物と合致点があるからだ。
「細工職人と名乗って、小妖精を連れている。奇妙な金属の乗り物というのは?」
「それは確認できておりません。街中のことですので」
単なる乗り物だと書いてあった。
「確かめておくべきだな。出発まででいい」
「人手はどうにかなるかと」
「それでいい」
たった一人を探すにはヘンレケの都は大きすぎる。
「あくまで戦公様への指示は変異型メタル討伐だというのをお忘れなく」
「もちろんだ」
ウフルバは傍に控える装鎧少女の様子を見るが無反応だった。
次回『ジーギラ戦公(1)』 「私はウフルバ・ジーギラ。戦公をしている」




