ヘンレケの都(2)
都市に入る前に麦粉を手に入れようと農家と交渉したが売ってもらえなかった。彼らの多くはどうやら雇われ農家らしく、地主の許可がないと勝手に販売はできないらしい。その地主は都市内に住んでいるという。
「ちゃっかりとシステム構築されてるな」
正輝は落胆する。
「村で買いそこねたのが痛かった。お陰で炭水化物に困る羽目になったぜ」
「ですね。麦粉があればパンを焼いてさしあげられたのに」
「魚も美味しいのにー」
ロナタルテは不満はなかったようだ。
「いいのかー? 俺がパンに困るとロナが食べる精気が少なくなってくぞ?」
「それ、駄目ぇー」
「じゃあ、中でたっぷり仕入れとかなきゃな」
実際のところ、なにが精気の基になっているのかはわからない。タンパク源となる肉っ気は切らしたことがないのでそっちかもしれない。バランスのいい食生活ができれば間違いないことにしておく。
「なんだ、こりゃ? ずいぶんと奇妙な車じゃないか。よく、こんなんでコケないな」
入門時に門衛にツッコまれる。
「俺は細工職人なんだ。これも試作品さ。身軽でいいだろ」
「かもしれんが、ろくに荷物が積めないでどうする」
「移動の足にはもってこいなんだぜ。今日だってドニニー村の向こうから来てこの時間だ」
自慢する。
「それは速いな。行商に来たなら構わないが面倒事は起こすな」
「気をつける。そんな荒っぽい人間には見えないだろ?」
「まあな。でも、このヘンレケの都には今、王国戦士団様もいらっしゃってるからな。滅多なことはしないほうが身のためだ」
情報に礼を言って街壁内に。土埃の多かった外に比べると、敷石で舗装されている都市内はかなりマシだ。人が多いのでスピードは出せないのはマイナスだが。
「王国戦士団か」
情報を吟味する。
「装鎧戦士の隊です」
「接触しないようにしたほうがよさそうだ」
「はい。わたしを装鎧少女だと見破ってくるかも」
見慣れているか否かはポイントとなる。
「王国の首都、王都? から派遣されてんなら、どうせここの領主とかの館? 家に滞在するだろ」
「合ってます。そういう知識ってないのですか?」
「俺の世界じゃ首長は基本的に公選制で、権限はあっても一般人と同じ暮らしをしてるのさ」
なけなしのファンタジー知識を駆使して、つっかえつっかえ尋ねる羽目になる。しかも、公選制の仕組みから説明しなくてはならない。社会構造の違いは会話を難しくする。
「そんな面倒なことをよくするわね?」
ティナレルザは呆れ顔。
「はい。そもそも、どうやって選ぶ相手の顔や為人を知るのか想像もできないです」
「いろいろと便利な道具があってだな、まあ、利権もあったりするから選ばれようと必死になる構造ってものもある」
「利権というのはわかります。都市によっては賄賂がないとなにもできないような場所もあると伺いました」
人間の欲はどこも似たりよったりらしい。
「だもんで、選挙の途中はあの手この手で一般人に媚を売りに行くわけだ」
「そうとわかってて引っ掛かるものなんです?」
「どこかであきらめてるようなとこあるんだろな。でも、発覚すると寄ってたかって非難するんだから人間ってのは面倒な生き物さ」
人の社会性の弊害はそういうとこに顕著に表れると思っている。一人で反抗するのは怖くとも、協調する人がいそうだと感じた瞬間に意識が切り替わるのだ。
「どっちにせよ、王国戦士団って連中はそれなりに権限を持ってると考えていいじゃん。下手に接触すると無礼討ちとか言いだすかもしんないから近づかないにかぎる」
遠回りしたが結論はそれだ。
「マサキが偉くなれば怖くなくないー? 強いんだもん」
「極論だな、ロナ。一面正解でもある。でも、こっちじゃたぶん血筋とかも関係してくるからちょっと無理だろな」
「そっかー」
やや褒められて嬉しそうにしてる。
「マサキが正しいわ。王国戦士団というからには、おそらく率いているのは戦公の家系に連なる誰かね」
「せんこう? なんだ?」
「王国で戦闘に従事する家系の血筋のこと。王から授与される役職のようなもの。ジノグラフのどこの国も統一されてるから憶えといて損はないわ」
指揮官の家系、あるいは強い戦士を排出する家系のことだろう。戦公は家格の一つなのだと理解した。
(きっと貴族のようなもんだろな。他にも種類がありそうだ。そのうち聞いとこう)
身の振りように関わってきそうである。
「それで、どうします? まずはどこかで麦粉を購入しますか?」
「それが先決だな」
エメルキアの提案は的確だ。
「生地は資金が手に入ってからにするとして、次は売り込みかな?」
「どこにするの? そのへんの商店でもどうにかなりそうだけど、買い叩かれる心配もあるわね。商人ギルドなら正当な評価を得られるかも」
「いや、商人ギルドはマズい」
最悪のターゲットである。
「どうして?」
「商魂たくましい連中だと、まずメタルライトの構造解析をしてコピー商品を売りだそうとする。まだ、こいつで稼ぎたいんでね」
「ああ、言うとおりだわ」
人間の本性に関してはまだ彼に一日の長がある。道具扱いされてきたティナレルザのような装鎧少女候補からすれば、深く知ろうとするのは危険行為に当たるはず。
「ってなわけで、どこから行くか。順当に狩人ギルドあたりにすっか」
「間違いがなさそうです」
正輝は見知らぬ風景の中で目的地を探した。
次回『ヘンレケの都(3)』 「でも、手は繋ぎます」




