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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ジノグラフの常識

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ヘンレケの都(3)

 購入した麦粉で、バイクのテールの両サイドに付けたバックの残りスペースを埋める。限界があるので、当面は変わらず肉食中心にすべきだろう。正輝的には穀類がないと口寂しいが我慢する。


「宿を決めて、そこで訊いたほうが早そうだな。バイクも目立つことだし」

 注目が気になってきた。

「都市の宿であれば、どこも走りトカゲ用のスペースがありますから借りれると思います。有料かもしれませんが」

「ふむ、そればかりはどうしようもないな」

「正輝なら上手に交渉なさるかもしれませんけど」


 できなくもないが、あまり噂になるようなことは避けるべきだ。さらりとお金で解決するのが危険を遠ざける道である。

 そのへんの食べ物露店で適当な買い物をして宿の評判を聞いた。無難なあたりを選んで部屋を確保する。当然、兄妹という触れ込みだ。


「じゃあ、リュックにメタルライトを詰め込んで、と。ロナとルーザは中に隠れるか? なんだったら軽くしてくれると精気のサービス付きだ」

「するー!」

 ロナタルテは作っておいたリュックの上に座った。

「隠したいんなら隠れておくけど?」

「いや、君たちを隠す気はない。嫌だったらいつもどおりにしてくれ」

「マサキは甘すぎ」

 そう言いつつ嬉しそうにティナレルザも隣に。

「ルキははぐれないよう手を繋いでおくか」

「もう経路が繋がってるので、かなり離れないかぎりはマサキの位置はわかります」

「そうだったな」

「でも、手は繋ぎます」


 連れだって街を歩く。小妖精(リトルエルフィン)が多少目を引くが思ったほどでもない。というのも、店先の籠に閉じ込められている子がところどころで見掛けられた。


「怒らないでくださいね」

「自重する」


 正直、腹は立ちまくりだが、騒ぎを起こせばエメルキアたちに波及する。第一に気をつけなくてはならないのは彼女のこと。どうにか優先順位で折り合いをつける。


(どれも似たような印象だな。なんでだ?)

 少し引っ掛かる。

(ああ、目が黄色い子たちばっかりだな。そういうのが好まれるんだろうか。流行り廃りとかあるのかも)


「あの子たちはなにをさせられる?」

 気にするなというのは無理だ。

「半ば愛玩用ですね。だから、あんな目立つところへ。他には流体金属(メタル)細工くらいでしょう。皿とかカトラリを作るとかです」

「やっぱり人間より上手なんだな」

「魔法に関してはどうしても」

 それだけに痛ましい。

「抵抗するすべがあるってのに、しないように教育されるんだな。ったく、歪んでやがる」

「はい、人間の傍でないと精気が得られず飢えてしまうと思い込まされています」

「むしろ、教育する側もそれを信じてそうだしな。根づいてるとなると簡単には変えられないか」


 慣習というより文化にまで昇華している。そうなると、人間の常識を根本からひっくり返さねばならない。非常に難しいといえよう。


「ロナ、あの子たちと仲良くするのは難しいから我慢するのですよ」

 悩んでいると、ロナタルテがふらふらと籠のほうへ飛んでいきそうになるのをティナレルザが引きとめていた。

「でもー」

「駄目」

「マサキなら出してくれるかもって教えてあげたいのにー」

 心が痛む。

「あの子たちはちゃんと街で生きていくすべを心得てるの。だから、……心配いらないわ」

「そうなのー?」

「ええ、そうよ」


 ティナレルザも心からそう思っているのではなさそうだ。戸惑いにすべてが表れている。しかし、ヘンレケの都にいる小妖精(リトルエルフィン)全員を一気に解放するのは正輝にも無理である。


「ごめんな」

「ううん、ロナも我儘言ったもん」


 頬に張りついてくる。近くの籠の中の小妖精がうらやましそうに見つめていた。彼女にも詫びの視線を送りながら通りすぎる。


「やっぱ、精神衛生に悪い。長居するもんじゃない」

「でも、マサキが生きていくには必要なことです」


 エメルキアは妙に譲らない。彼女は正輝を人間の中で生活させようとしている。それが正しいと思っているのだろう。


「でもな、こういう場所にいればいるほど俺は結構乱暴な妄想を掻きたてるぞ?」

「それは嬉しいのです」

 少女は泣き笑いの面持ちを見せる。

「でも、あなたにとってもひどく苦しい道になるのは確かなのです。お勧めできません」

「あきらめたらそこで終わりじゃないか?」

「言わないで。ルキはマサキが苦しむ姿を見たくないだけなの」

 ティナレルザも自重を促してくる。

「だな。すまん。俺が苦しめてたら本末転倒だ」

「いいえ、わたしが人に大切にされることを覚えてしまったからなのでしょう」

「ルキがなにを見せたかったのかわかってきた気がするよ」


 ジノグラフの常識は妖精種(エルフィン)に残酷だ。それは彼にとっても同じこと。しかし、急に直面するよりは少しずつ慣らしていくべきだとエメルキアは感じたからこそ島を出るのを反対しなかったのだと思う。


「駄目だ。甘いものでも食べて気を紛らわそう。大きな街のメリットはそれが簡単にできることくらいだもんな」

「いいですね。わたし、あれ食べてみたいです」

「任せとけ」


 すぐさま飴を使った焼き菓子を買ってきて皆で分けた。食べ歩きを行儀が悪いなど言っていられない。


「ところでマサキ」

「なんだ?」

 ティナレルザが改まって言う。

「これ、蜜ヒル使ったお菓子だって気づいてた?」

「な、なんだって!?」

「嘘」


 マサキは小妖精の気遣いに感謝した。

次回『ヘンレケの都(4)』 「たまに噛むんじゃん!」

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