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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ジノグラフの常識

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ヘンレケの都(1)

 決めたからといってすぐに出発というわけではない。準備もいる。なにより、収入源を作っておかねばならない。ドニニー村のように善意を当てに向かうのは難しいし、したくなかった。


(生活のために誰かと深く知りあうほどリスクは高くなる。それは忘れない)

 もうエメルキアたちに悲しい顔はさせないと正輝は心に刻む。


 よほど傷ついたのは、むしろ彼のほう。ロナタルテもドワッツの奥方の言葉に疎外感を覚えたようだが、元より種族の違いで人間とは一線を引いていただけにショックは小さかったらしい。


(絶望したのは俺が一番か。同じ人間と期待しただけに馬鹿を見た)

 もう同じ過ちはくり返さない。


 売れるとわかったのでメタルライトを作っておく。素材の流体金属(メタル)も貴重品となった。人間社会の中で商取引として入手する方法をあきらめるべきだと思った。みだりに売り渡せない。


「1500ディムで売るなら十個もあれば当座は十分では?」

 部品を接合させつつ少女が言う。

「いや、もっと吹っ掛ける。集落規模が大きいほど物価も高いだろ?」

「それはそうです。でも、高級なものでなければ300もあれば一泊できます。食事も右ならえですし」

「相手を見て売りつける。時価ってやつさ。善意なんぞくそくらえだ」

 遠慮する気持ちは微塵も残っていない。

「重症ですね」

「病んでいるのはジノグラフの人間の常識のほう」

「マサキだって正義感をこじらせてる」


 急所を突かれる。からかってきた小妖精(リトルエルフィン)を瞬時に捕まえた。もがいているが放してやらない。


「なんだって、ルーザ?」

「ちょっとした冗談よ」

 青ざめている。

「今日は荒っぽく洗ってほしいらしいな」

「いやー、優しくしてぇ」

「だーめ」


 流体金属(メタル)で作った桶に川の水を汲んでエメルキアにお湯にしてもらう。ロナタルテに脱がせたティナレルザを布でくるんで放り込んだ。ようやく洗い布にまでまわるほど生地が入手できたのは大きい。


「はうー」

 言葉に反してやんわりとこすってやると気持ちよさそうにしている。

「ったく。油断してたら俺だって牙を剥くからな」

「嘘。マサキは絶対そんなことしないもの」

「嘗められたもんだ」

「するくらいなら、私たちなんか気にせず村で歓待を受けたはずだわ」


 見抜かれている。事実、彼は妖精種(エルフィン)を乱暴に扱うなど思いもつかない。村で断りもなしに変身したのさえ、あとで少女に謝っていたほどだ。


「きれいにしないと駄目ぇー?」

「街に行くからさ。変な誤解されたくないから、身ぎれいにしておかないとな」

 次はロナタルテを洗う。


 田舎者設定は継続にしても、まるで小妖精(リトルエルフィン)を商品にしてるみたいに思われるのは我慢ならない。きちんと身内として扱っているアピールのつもりだ。


「服も新しいものにしましょうね。さすがに都市クラスの場所でも小妖精用に仕立てられた服は売ってません」

「そうなのか。まあ、生地はいろいろあるだろうから好きな色のを買ってやる。仕立てはルキ次第になるけどな」


 幸い、村人の服装も女性のものに関しては、今彼女たちが着ているものと大差なかった。ちょっとガード甘めなのもこちらの世界の常識らしい。エメルキアもあっという間に脱いで自分の順番を主張した。


「態度を改めたほうがバレにくいか? それとも、二人は隠しておいたほうがいいのかも?」

「様々な職業があります。大きな街であればそういう方も多いでしょう。ちょっと癇に障る物言いをされる場合もあるでしょうが気になさらないように」

「難しいな。こんなだからルーザに揶揄もされる」


 水色の髪を丁寧に流していく。今はお湯だけだが、石鹸のようなものも手に入れば仕入れておくべきだと思った。きれいにしてやれば、もっと美しく輝くだろうと思う。


「マサキは妖精種を愛しすぎないようになさってください。所詮は異種なのをお忘れにならないように」

「それは無理な相談だ。俺には一緒にしか見えないんでね。むしろ、君たちのほうが美に恵まれている」

「そうやって囁くから誤解してしまうのです」


 濡れた身体のまますがりつかれる。否応なく、彼も着替えなくてはならなくなった。ついでにロナタルテたちに背中を拭いてもらう。


「じゃあ、明日は朝から出発だ。コドニーの街だと俺の話が伝わってる可能性もあるから東に行こう」

「大きな都市あるかも」

「そうなのか?」

「飛んでくるとき見た気がするわ」


(裸の付き合いも度が過ぎないようにしないとな)

 街にいるときも同じにしそうである。


 前まで拭きたがる小妖精(リトルエルフィン)を肩に留まらせて正輝は身体を拭った。


   ◇      ◇      ◇


 しばらくは街道に出ずにバイクを走らせる。ドニニー村を大きく迂回したあたりで道に入った。進むほどに人通りは多くなっていく。


「街壁の外にも大勢暮らしてるみたいだな」

「農民は街壁内に住むと移動が大変ですので」

「さしづめ衛星集落ってとこか」


 妖精種(エルフィン)たちはピンときていない様子である。言われてみれば、ジノグラフに月のような衛星はない。夜は星明かりのみである。もっとも、空気が澄んでいて、曇っていなければその星明かりで真っ暗闇ということもない。


「出入りに制限あったりする?」

「一般的にはギルドの発行証みたいなものがあればフリーですけど、なくても通行料を払えば入れてくれるはずです」

「世知辛いな」


 なにをするにも金とは縁が切れないと思う正輝であった。

次回『ヘンレケの都(2)』 「俺がパンに困るとロナが食べる精気が少なくなってくぞ?」

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