得るもの失うもの(3)
盗賊団は全員が縛りあげられ、後日コドニーの街に連行されることになる。若い男たちで救助隊が編成されて、聞きだしたアジトへと向かっていった。正輝は少し心配だったが、村人たちが不要だと言うので残っている。
「取り返してきたら祝いの宴を開いてくれるってさ」
「あまり余裕がないので盛大にとはいかないでしょうけど」
少女も嬉しそうだ。
とりあえずは宿に戻って一階のテーブルで休んでいた。ロナタルテやティナレルザも嬉しそうに張りついている。
「前祝いだ。好きなだけ食べてくんな」
おかみさんが料理を並べてくる。
「ありがとう。エメルキアはあんまり食べないから少しでいい」
「なに言ってんだい? それはあんたの武器でしかないじゃないか。人間でもないのに感謝したりしないよ?」
「は?」
おかみさんも旦那さんも彼には何度も感謝の言葉を投げ掛けてくるが、少女にはなんの言葉もない。そこに座っているのも見えてないかのようだ。まるで、立て掛けてある剣に対するような態度である。
「なんでそんなに冷たくできる! ルキだってあんたたちのために!」
当人に制止された。
「いいのです。そういうものなので。わたしたちは人間にとって便利な道具でしかありません。国に管理されているというのはそういう意味なんです」
「馬鹿な! そんなのあっていいわけが!」
「事実です。マサキが知らなかっただけなのです」
エメルキアの完全にあきらめた面持ちを見て覚った。どうしようもなく事実であって、ジノグラフの常識なのだろう。彼女が時折見せる陰りの原因を完全に理解した。
(こんなところへ!)
大陸に来たのを後悔する。エメルキアやロナタルテ、ティナレルザを苦しめるだけの決断だったというのか。愕然とする。
(俺は、なんてことを)
ショックで言うことを聞かない足を奮いたたせて立ちあがる。手摺りに頼りながら二階まで上がると速やかに荷物をまとめた。こんなところにいればエメルキアたち三人がつらいだけである。
「ごめん、俺、馬鹿だった」
「出る必要なんてないんですよ。あなたは感謝を捧げられるだけのことをしたんですから」
「嫌だ。一時たりとも君たちを苦しめたくない」
「マサキは優しすぎです」
腕を取って寄り添ってくる少女の体温だけが救いだった。心は千々に乱れて、どんな言葉で妖精種たちを慰めればいいのかわからない。
「おお、マサキ、どうしたんだ。明日には宴だってみんなが騒いでる」
「ドワッツ」
バイクを押して歩いていると、通りで生地屋の職人一家と出会う。
「君たちはまたルキたちと遊んでくれる?」
「やめてください。うちの子とただの武器を一緒にしてどうなさるんです? マサキには感謝の言葉もありませんけど、堪忍できることじゃありません」
「あんたたちもか」
完璧に打ち砕かれた。村にはなんの希望もないと知った。自分が装鎧戦士であることが発覚しただけでこうなってしまうと信じたくもない。理想とするライダーの姿はこれではない。
「じゃあな。もう二度と会うことはないだろう」
「マサキ? なにを言ってるんだい?」
ドワッツも心から理解できない様子である。それが彼の心をずたずたに引き裂くなんてまったく思っていないのだ。
正輝はバイクにまたがって走り去った。
◇ ◇ ◇
そこは会議室である。このコタカッタ王国の中心といっていい場所。その日、検討された議事の中でも後ろから数えたほうがいいくらいの些細な事案が取りあげられる。
「辺境のドニニー村を襲っていた盗賊団は捕縛されたとのことです。村人の手によってコドニーの街へと護送されて引き渡されました」
進行役が報告した。
「なんで、そんななんでもないことをここで取りあげる? 時間の無駄ではないか」
「いえ、実はその盗賊団が都市ヘンレケへと輸送中だった物資の車列を襲っていまして、装鎧少女二体が流出しておりました。賊の中には装鎧戦士が確認されていたそうです」
「く、それはマズいな」
問題は意外と大きい。
「それで戦士ギルドに依頼して村の警護をさせるとともに装鎧戦士の確保を命じてあったのですが」
「どうした? 捕縛されたとあったな」
「それが、どこからとも知れず現れた別の装鎧戦士が剥奪してしまったというのです」
剥奪とは装鎧戦士と装着者の経路を遮断する行為である。主に装着者が致命傷を負うことで発生する事態であった。
「装鎧戦士を二体? たった一人の戦士が?」
異常な報告だった。
「派遣した戦士に報告書を求めたところ、圧倒的だったと村人の証言がありました」
「強いな。その戦士はどこにいる? 早速王国の管理下に置かねばならん」
「それが、またどこへともなく去ったそうなのです。村人も正確には把握しておらず」
報告者も困惑する。
「なんてことだ。どこぞの王国からの尖兵かもしれんのだぞ。逃がしたのは痛いな。なにか手掛かりは?」
「それが、物珍しい金属製の乗り物に乗っていたそうで。それは車でもなく、たった二輪で走るのだと」
「なんだそれは」
手掛かりとしてはわかりやすい。ただし、怪しさは全開である。
「王国戦士団に触れを出せ。奇妙な二輪の乗り物を駆る装鎧戦士を見つけて確保せよ、とな」
「承りました」
些細な一件ではすまなくなった会議室だった。
次はエピソード『ジノグラフの常識』『人間不信(1)』 「あんまり良くない傾向?」




