敵の敵も敵(4)
「そう考えるのは早計というものではないかね?」
食いさがってきたのは戦公キハルゼ・モノークである。この男は乱なくば功なしと考えるあまり過激な予測を喧伝する。
(乱れれば功を立てられるのであれば平時のトラブル対応にも使われよう。使われないということはその程度の実力しかないと判断されているとどうして気づけない?)
ダファクリは本当に迷惑だと考えはじめる。
まるで議論をかき混ぜるためにいるような男である。それでも、モノーク家は建国以来優秀な戦公を輩出してきた家系だから軽々に切り捨てることはできない。
「どういう意味かね?」
問わないわけにはいかない。
「敗退した北の王国軍がもし我が軍の奇襲を受けたと感じていたらどうするというのか? 今度は反撃のために二倍三倍の編成をしてやってくるのは必定。備えなしにあらば、次は反逆者も撃破して王都まで一足に迫ってくるかもしれん」
「コドアドネ軍がかね?」
「そうなれば、誰が陛下の御身をお守りする。貧弱な街壁上に並べられる兵は知れておりますぞ。破られ市街戦に持ち込まれれば、兵は有効には戦えませぬ」
騒ぎ立ててくる。
「貴公の仮定だと、かの装鎧戦士は討ち取られておるな? では、そちらの対策は敵に敵をぶつけるのが有用とお考えか?」
「当然ではないか。誰が数千の兵に一人で抗せるという?」
「王国軍は前回の討伐作戦でここにもいるジーギラ公、コージャレ公、そして戦死したデゼン公を投入した。私の認識ではそれぞれが一騎当千に値する勇士たち。その三名が敗退した相手を向こうに、数千の兵で確実に勝てるとおっしゃるのかな?」
つまり、ウフルバやラツッパを侮っているという論調になる。それを議論の席で公言するのかと問いただしたのだ。
「そこまでは。しかし、あり得ぬことではなかろうかと」
キハルゼはしどろもどろになる。
「では、貴公は希望的観測で戦略を組み立てると申されるか? とてもではないが皆は乗れんぞ。陛下の御身はもちろん、国民の命と生活が懸かっておるのだ」
「そうでありますな。口が過ぎましたこと、撤回させていただく」
「では、北の国境は引きつづきブラフヌ公に目を光らせていただくとして、反逆装鎧戦士の対策に移らせていただくがよいか?」
ようやく異論はしぼむ。が、一筋縄ではいかない。
「ダファクリ、そなたはそれで良いのか?」
恨みがましい目つきで噛みついてきたのは国王ポストカその人である。
「どうなされましたか?」
「かの反逆者は余の命を狙っておるのだぞ? 討ち取るための方策をもっと真剣に議論せよ。キハルゼが言うように、あれを弱らせられるならコドアドネ軍でも歓迎すべきではないか。そうだ、密使を送れ。先陣を打ち崩したりは反逆者の目論見とコドアドネ国王に言い含めて出兵を促すのだ」
「それは本気で仰せですか、陛下?」
恐るべきことを言いだした。
「なにがおかしい」
「敵国軍を引き入れるということは、我らが国土を荒らされるということ。装鎧戦士一人の討伐のために国民を苦しめると仰せになられますか?」
「ダファクリ、貴様、余の命と国民の命を天秤にかけるか?」
一番厳しい展開になってしまったと臍を噛む。キハルゼが余計なことを言ったばかりに国王に変な希望を抱かせてしまった。どう収集つけるか悩ましい。
「ご心配なさることはございませんわ、陛下」
ラツッパが挟まってくれる。
「臣公ダファクリ様が申しあげたとおり、先陣は勇み足であったは明白ですの。惨敗となれば、恥ずかしくて誰が王宮に継戦を持ち掛けられましょうか? わたくしは近日中に宣戦布告の撤回が伝えられるのではないかと考えておりますわ」
「どういうことだ、コージャレ公?」
「要するに、これ以上コドアドネがちょっかいを掛けてくることはないと申しあげましたの。戦公モーズオの撃退も伝わった頃でしょう。わざわざ敵軍を呼び込んでまで国民を危険にさらす必要はないと断言いたしますわ」
ラツッパのそれはありがたい論調である。なぜなら、問題になるのは国土守護である。安全保障上、反逆者を許すわけにはいかないが、まだマシであるのだ。
敵軍は国土を焼き、働き手の男性を殺し女性を暴行し、そして子供を奪い去っていく。しかし、反逆者は今のところ国民に被害を出すのを敬遠しているとしか思えない行動をしている。どちらと対すべきかは考えるまでもない。
「ラツッパ、貴様までも余の命を軽視するか。ダファクリやウフルバが進言するから、役立たずになった貴様をまだ取り立ててやっているというのに?」
怨嗟の声を突きつけている。
「御恩を感じておりますからこそ申しあげますわ。軽々に敵国に密使を送るなどと仰せになられませんように」
「もういい! コージャレ公には蟄居を申し付ける! 下がれ! 顔も見たくないわ!」
「そうでございますか、陛下。では、わたくしは進退を陛下の御心に預けて下がらせていただきます」
女性戦公は椅子から立ちあがってしまう。
「待ちたまえ、コージャレ公。陛下、どうかご再考を」
「貴様も外されたいか、ダファクリ? 余が更迭を命じたらそのとおりなのだ。余こそがコタカッタ王国なのだと何度言えば理解する?」
「く……、しかし」
それ以上を噛みころす。
(国民なくば王国足り得ないとどうしてお気づきになられない。私は、私たちは陛下を甘やかしすぎたのか)
ダファクリは苦悩のままに顔を伏せた。
次回『敵の敵も敵(5)』 「わたくし、もう未練がありませんの」




