敵の敵も敵(3)
会議室は静まりかえる。そもそもがコドアドネ王国からの宣戦布告に応じての会議だったのだ。それも日を改めての三度目ともなれば議論もされ尽くした感がある。
「国内情勢もあり、出兵して防衛線の構築を如何にするかの意見がまとまらずの前回の解散」
ダファクリは他に思い当たらず前置きする。
「敵先陣の迎撃を北のブラフヌ戦公にお任せして討議するも、時間的限界が今日明日というところで諸公にお集まりいただいたのではあるが、報告書の受け止めを如何するかに変わったと思われる。どうお考えか?」
「コドアドネは布告前より軍の編成を済ませていたのはこれにより判明した。ならば、防衛線の構築なくして撃退できる規模の侵攻ではないものと思われないか?」
「モノーク戦公の意見はもっともなれど、防衛線に割けるほどの戦力が今の王国軍には足りないのも事実。敵主力を受け止めるには西沿岸部の戦公も動員せねばなるまい?」
戦公キハルゼ・モノークの防衛線構築の主張は功を望むがゆえのものであるのは周知のこと。反論した臣公ドワサ・ザーネクの立場では、削りつつ王都まで引き寄せ、補給線を断つなどの施策を講じ撃退を主張してきた。戦費のことも念頭にある。
「動員すればよいではないか」
「西への守りはどうなされるか? 沿岸港湾都市を一度占拠されれば奪い返すのにどれほどの戦力が必要かとお考えになられるがいい」
「北西諸国が動くとも限るまい。わからぬ相手に戦力を割くくらいであれば、布告してきた明確な敵に対するのが先決であろう?」
「だから、近視眼にすぎると言っているではないか」
野戦派と籠城派の議論が平行線なのはこれまでどおり。お互いの利を述べるばかりで譲るところをしないので毎回散会となっている。ダファクリの問い掛けも無視するので辟易していた。
「そもそも、北の備えに着いていたジーギラ戦公を戻したところで宣戦布告となっている。どうして帰ってきたか、ウフルバ公?」
矛先を変える。
「待たれよ、キハルゼ公。それは陛下の御下命によるもの。不遜なるぞ」
「そ、そうでありましたか。これは失言でございました。取り消しますのでお許しくだされ」
「過ぎたことは仕方あるまい。議論すべきはこれからの対処である」
そこまで話して、一人肩を揺すらせている者に気づく。ダファクリも無視できず、意見を問うことにした。
「どうしたか、コージャレ公?」
指せば、片眉を上げて応じてくる。
「論じるまでもないことをいつまで続けるつもりなのかと思いまして」
「説明願えるか?」
「敵先陣の撃退はマサキ……、件の装鎧戦士マサキ・コーノギの仕業であるのは明白ではなくて?」
報告書が物語っている。
「ふむ、それは私も同意する。では、なぜ論じるまでもないのかね?」
「どうして彼は北の国境まで出向いてコドアドネの先陣を撃退しないといけなかったのかしら。答えは簡単、コドアドネ軍に我が国土奥深くまで入られたくなかったからですわ」
「不都合があるのかね」
すでに読めているダファクリは、詳しい説明を彼女の口からお願いするつもりであった。促すように質問を重ねる。
「王国軍だけでなくコドアドネ軍まで相手するとなると、如何な強力な二重装着者であれど手がまわらないからかしら」
彼の考えそのままを述べてくれる。
「だから、北の軍の先陣を叩き潰して侵入するなというメッセージを送ったのよ。来るならば叩くってね」
「それはおかしな話ではないかね、コージャレ公。あの反逆者はおこがましくも我が国全体をも敵としている。敵の敵であるコドアドネは王国を弱らせてくれる味方に近い存在と考えるのでは?」
「味方ではないわ。マサキにとっては敵の敵も敵。それは彼を最も知るジーギラ公が思い当たるのではなくて?」
話を振る女性戦公。
「うむ、あいつならば都合良く味方とは考えるまい。間違いなく倒すべき敵なのだから見過ごすつもりにはならぬ。見過ごせないなら、視界から外しておくのが得策と考えような」
「そう、マサキとはそういう人。手合わせしてみるとよーくわかるわ」
「たかがはぐれ装鎧戦士一人、ずいぶんと買ったものだな?」
功を焦るキハルゼ公には邪魔な論調である。まるで敵に通じているかのような目で見据えていた。
「焦ったところでコドアドネは攻めてきませんことよ、キハルゼ公。メッセージは正確に伝わったでしょう。そもそも、先陣は勇み足だったのではないかとわたくしは思っておりますの」
深い推測まで一致しているのには彼も舌を巻く。
「勇み足とは?」
「コドアドネ南の公領を治める戦公が、宣戦布告をいいことに我先にと動いたのではなくて? 出撃タイミング的に戦公モーズオ・ダラッハがコドアドネ王宮まで帰り着いていないとしか思えませんもの。ろくに意見も聞かずに暴走した結果。ならば、次手は打ちづらくなりませんこと?」
「む、確かに」
ラツッパ・コージャレの言は理路整然としている。
「帰還した先陣の惨状を見ればさらに動きづらくなるというもの」
「それを洞察する聡明さもある。マサキの意図はそこにあるもので間違いあるまい」
「あら、意見が合いましたわ」
ダファクリはおおよそ話の流れが整ってきたと考えた。
次回『敵の敵も敵(4)』 「当然ではないか。誰が数千の兵に一人で抗せるという?」




