妖精種決起(5)
工作室に移動する。そこは織り機などを置いている他に、各種素材を保管しているスペースでもある。正輝が求める物はそこにある。
「姿が見えないと思ったら、ここにいたのか、イーゼ」
織り機と仲良くなってしまっているルイゼトネを発見した。
「作りたい物、あって」
「あまり根を詰めるなよ」
「楽しい、から、したい」
以前みたいになにか役割がほしいという義務感ではなく、自分がしたいことを探すようになったのはいい傾向だから止められない。
「マサキ、見て」
タイミングだと思ったか椅子から立ち、なにか取りだしてくる。
「これは俺のじゃ……、待て、スパンデックス生地か」
「着れる、はず」
「着れる。ってか知ってる。コンプレッションシャツじゃん」
伸縮性の高い生地で作ったアンダーウェア。着圧があることで筋肉の動きを助けたり疲労を抑えたりする効果がある。吸湿速乾性も高く、運動や労働をする人向きのアンダーウェアなのだ。
「わお、ありがたい。まさか、こんなの作れるとか思わなかったぜ。いい子だな」
感動して抱きしめると嬉しそうに肩に顔を埋めてきた。
「みんなの、下着ばかり、じゃなく、マサキのも、と思って」
「洗い替えのも作ってくれてる最中だったか。ほんと、ありがとな」
「今日中に、なんとか」
何着か準備してくれるつもりという。
「こんないい物作ってくれるとか、鶴の恩返しみたいだな」
「つる?」
「なんでもない。イーゼはどっか行っちゃたりしないでくれ」
「しない、よ?」
抱きあげていたら顔を真赤にしている。ルイゼトネはお世辞にも器用とはいえないが、褒めれば褒めるほど伸びていく子だった。
「悪い。邪魔だな」
「ううん」
はにかむ顔が可愛い。
「楽しいんなら続けててくれ。横で別の作業する」
「なに、するの?」
「出掛ける子たち用の装備品。流体金属は結構余裕あるな」
生息域にメタルスライムの間引きに行っていた分が溜まっていた。エメルキアがほくほくしながら覗き込んでいる。
「植物油も備蓄はある、と」
糸の素材なので熱心に集めている。
「じゃあ、ポリカーボネートでこれくらいの……、そうだな。丸っこくて薄い、卵の殻みたいな容器を作ってくれるかい、ルキ?」
「どうするんですか?」
「中に流体金属を詰める。って、そんな顔すんな。みんなが安心して出掛けられるようにするのに大切な道具なんだから」
エメルキアがふくれっ面をしているうちにランゼッタが作ってしまう。パートナーを宥めながら容器に流体金属を注いで密閉してもらった。
「ほら、このとおり。減らないだろ? 持ちだすだけだから」
3cmほどの丸い粒を示す。
「小妖精にメタルを持たせてなにに使うんです?」
「メタルは使わない。精気の保持特性を利用するだけさ。原理的にはスピリットシャフトと同じ」
「持ち運びできるスピリットシャフト、チャージャーですか」
小妖精用のサイズ感にしてある。
「訓練したからって、いつも補給ができる環境にあるとは限らないだろ? もしも、例えば他にどうしようもなく滞空が長引くときとか、力が使えなくなる前にこいつでお腹を膨らませられるようにする保険さ」
「確かに。スカウティングに出るなら、どんなケースに当たるかわかりませんものね。携行品としては必須なのかもしれませんけど、はぁ」
「ため息つくな。絶対量は変わらないじゃん。拡散するだけ」
持ち帰ってくり返し使う物である。正輝の知識でいくとモバイルバッテリーに近いもの。精気切れで動けなくなった小妖精がどことも知れぬ場所で捕まるのは絶対に避けたい。頑張ってくれる家族が、だ。
「これに精気を詰めて、と」
流体金属に妖精種たちの元気のもとを充填する。
「それは駄目です」
「え、これ、失敗? いい考えだと思ったんだけどさ。重たい?」
「いいえ、マサキ様の精気だと、道中絶対につまみ食いして機能しません」
テアクルセは断言してくる。
「そっち?」
「これに充填するのはスピリットシャフトのプレーンなものにします。そうでないと意味がありません」
「あ、はい」
指につまんでいたものはロナタルテに奪われた。「これはロナのオヤツ」と自慢げに掲げているが、ティナレルザに怒られて取りあげられている。
「名前はスピリットビーンズにでもするか。大量に作って出掛けるときは持たせるようにする」
「大量に?」
エメルキアがおののいている。
「しょーがないじゃん。任務についてくれる子には持たせないと」
「そう、ですよね」
「悲しそうにすんなよ。スカウティングするってことは近場にメタル進化種が出た情報も手頃に入ってくるってこと。ちゃんと狩りに行くから」
宥める材料はそれくらいしかない。
「約束ですよ」
「絶対に約束守るから拗ねるなって」
他に当てがあれば代用するのだが、今のところ精気を保持できる素材に心当たりがない。やや重いのが難点だとは思っている。
「あとは、スピリットビーンズを背中にかつぐナップサック……、バッグみたいなのを作って持ち運びできるようにしよう」
「どんな、の?」
興味を持ったルイゼトネに正輝はイメージ共有をした。
◇ ◇ ◇
「よーし、じゃあ出発!」
数日後、準備を整えた彼らはクロスカントリー車に最初のトレース班を乗せて里を発つ。目指すは北。王都やコドアドネの動き次第でどこに向かうかは定まっていない。
新たに発足した妖精種スカウティングチームで情報戦略の幅は広がった。
次回『敵の敵も敵(1)』 「敵襲! 敵襲!」




