妖精種決起(4)
妖精種たちが自ら決起し、作戦参加するのが決まった。具体的な打ち合わせをする必要が生じる。そう話を向けるとテアクルセやピトレスカは頷く。
「まずは北の動向ね。頭になかったわ」
正輝にとっても唐突なことだったので当然だ。
「しかも、一番遠い監視目標。何人必要?」
「飛ぶだけで一週間近く。戻りも同じだけ。滞在期間を長くして交代制にしないといけませんかしら?」
「いや、長くすると情報密度が薄くなるだけ。ラップさせて、長くとも三日で一度報告に戻させるようにしないと」
二人はローテーション制にすると決めていたようだ。監視役と情報運搬に飛ぶ役と分担制にするとスカウティングは安定してもそれぞれの消耗が激しい。行っては戻り、休養期間というローテーションが適当だという結論に至ったらしい。
「待てって、一人行動はリスクが大きい。最低でも二人行動にして」
そんな口振りだったので遮る。
「そうね。もしものことがあっても一人が情報を持ち帰れれば」
「違う違う、お互いをフォローし合って二人とも無事に帰るため。ほんとは三人って言いたいところだけど向かわせる人数が増えすぎるのもなんだって思っただけじゃん」
「そうなのですか? ですけど、スカウト要員、三千人以上いるのでそんなにお気になさらなくとも」
すごい数字が提示される。
「マジで?」
「じゃあ、マサキが安心するよう危険地帯は三人編成、ただの巡回班は二人編成でいきましょ」
「それが順当みたいですわね」
置き去りにされて話が決まっていく。能動的に動くとなると彼女たちはこれほど活発になるのかと驚かされる。
「北のスカウティング以外はどこかご所望でしょうか?」
テアクルセが尋ねてくる。
「想定しているのは、王都の動向、西沿岸部一帯に固定して三地点ほど、東の都市は巡回班と考えております。この中で危険地帯は王都くらいでしょうか」
「お、おう、十分だと思う」
「西部都市群は沿岸部への交代班が上空を通過する際に大きな動きがあれば報告させる程度でよいかと」
思ったより大規模な情報収集活動だ。
「他は気になるとこないのかしら?」
「トーレスは足りないと思ってるのかい?」
「強いていえば、話に聞く東の大陸。コドアドネとはわずかながら交流があるって聞いたことあるもの」
ジノグラフには、彼らのいる大陸とは別に東にも大陸があるそうなのだ。コタカッタが東端に位置するだけで、西側諸国からすれば西の大陸になるはずだが。
「どの程度の交流、いや、どれだけの距離ある?」
考えようにも情報が足りない。
「詳しくは誰も知らないわ。だから決めかねてて」
「うー、忘れよう。キリがない。それを気にするなら、西の大海の向こうの列強諸国の動向までスカウティングが必要になる」
「マサキの言うとおりね。とりあえず目の前の問題を片づけることから」
ピトレスカも納得の決定だ。
「おそらく、東の大陸の情報は教団を調べれば出てくると思う。統一王国時代は盛んな行き来があったはずじゃん。教団はそっちにも手を伸ばしてるんじゃね?」
「そのはずです。ゼアネルヒ様はこちらとあちらは独立して本庁を持っているとおっしゃってました」
「そうなんだ、ルキ。だとすると、簡単に統合できるほど近くはないってことだな」
布教と統制を目するなら本拠地は一つにすべきだ。それを二つに割っているということは、片方の意思決定が容易には伝わらない距離があるということ。
(お腹いっぱいの小妖精でも飛んで渡れない距離。大型船による航海レベルの距離だな)
西の港に停泊していた大型船を思い浮かべる。あれは漁船と違い、交易を行うための運搬船。長期航海を意図して造られたものだった。
「でしたら、あとはマサキ様チームの行程をトレースして順次情報をお届けする班ですわね」
テアクルセが提示する。
「どちらに行かれているかで距離は変わりますから編成も変動的ですかしら。一番人数枠を取っておくべき。ああ、うらやましい。里で心待ちにしていなくともマサキ様に会いに行けるなんて」
「こら、テア。任務に私情を挟むんじゃない。たぶん、希望者増えるから、全体のローテーションで不満のないようにする立場なのよ」
「わかっておりますのよ、はぁ」
ため息混じりである。
「凹むな。こまめに帰りたいのはやまやまなんだが、これからの局面はそうもいかなくなるかもしれない。相手は王国、いや王城に絞れてきてるんだからさ」
「ほら、トーレスの言うとおりでしたわ」
「あきらめてって。その代わり、こっちで情報精査、統合して託すんだから、私信の一つくらい混ぜてもいいから」
交流を保てるだけで我慢するよう説得されている。私情を捨てて監督役に徹する才能はピトレスカのほうが優れているらしい。言葉の端々に同じ気持ちが含まれるのは漏れているが。
「俺も返事するからさ」
慕われているのは嬉しいものだ。
「それ以上に、行動する子たちには訓練の他に十分な装備が必要だと思ってる。それを今から準備しよう」
「武装します? 腕力はないに等しいですけど」
「じゃなくて、なにがあろうと帰れるだけの装備。それがないと、とてもじゃないけど送りだす気になれないぜ」
戦闘力が念動力しかないだけに、正輝は彼女たちの安全が最優先だと考えた。
次回『妖精種決起(5)』 「みんなが安心して出掛けられるようにするのに大切な道具なんだから」




