妖精種決起(3)
ひと晩ゆっくりと休んだ正輝が起きだすと、食卓は随分と賑やかになっていた。連れ帰った装鎧少女五人も同居となったからだ。予め想定していたので手狭になるにはまだ少し余裕がある。
「やっぱ、食堂に集まるんだ」
物を口にする習慣が身につくかわからないが、帰り道では皆でなにか食べるようにはしていた。最初はおっかなびっくりだった少女も味覚を楽しむということを憶えてきた様子。
「特に食事を勧めるつもりはありませんが、必ずダイニングには来るルールにしているんです。そうなるとやはりなにか食べたくなるみたいで」
「いい、いい。俺一人の寂しい食事になるとつらいじゃん」
メインは野菜とフルーツで、焼き魚をひと口ふた口つまむだけでも食卓を囲むことに意味がある。朝から三人前は食べる彼と比べると質素なものだが、会話の場になるのも悪くない。
「適当にくつろいでて。食ったら少し今後のこと相談しようかと思ってる」
「マサキ様がお決めになっても構わないのですけど、意見をご所望でしたら喜んで」
テアクルセはとにかく正輝を立てる姿勢を貫いてくれる。新入り装鎧少女たちに知らしめるためだろうが、尻がむず痒くなるほどにならないようセーブしてほしいものだ。
「わたくしからもご提案させていただきたいことがございますし」
珍しい切り出しをしてくる。
「え、なになに。聞くよ」
「いえ、マサキ様のほうからお願いいたします」
「気になるじゃん。まあ、こっちの話はそう難しいことじゃないしいいか」
まずは経緯説明をする。支庁攻略は目標として立てていたので少女を連れ帰ったのはテアクルセたちにも想定内にしても、今回の問題は過程にある。
「というわけで、北のコドアドネ王国ともひと悶着あった」
戦公モーズオを撃退したのは少なからず影響があるという意味。
「メンツを潰した形になったからどう出てくるかわからない。しかも、コタカッタの弱体化は隠しようもなかっただろうから、相乗効果で仕掛けてくる可能性大だと思う」
「でしょうね。好機と見るのは間違いありません」
「せっかく教団支庁を無力化してコタカッタ王国も弱らせたのに、北の参戦は面白くないのです」
エメルキアも帰り道で議論していた内容を話す。
「だもんで、とりあえず北から進軍してくるようならこっちを先に叩きたい。突っ込んできた鼻っ柱をへし折るくらいの感じで」
「そうかも。これ以上コタカッタ領内を混沌とさせると誰を相手に戦えばいいのかわからなくなるわ。不意を突かれる可能性も格段に上がるし」
「だろ、トーレス。まずはコタカッタから片づけたい。しかしだ、コドアドネが仕掛けてくるかどうかわからないんじゃ動きにくい。でさ、お願いがあるんだけど」
重要なポイントは情報把握。これに関して、彼らには大きなリードがある。なにせ、国内の七割を超えるであろう小妖精が里にいて味方なのだから。
「危ないのと厳しいのは承知で頼みたい。誰か北に飛んでくれる子がいないかなって」
「なるほど」
彼の意図を最も早く理解したピトレスカがテアクルセに目配せしている。正輝はやはり難しい注文だったかと勘違いした。
「実は、わたくしからの提案がそれに関わることでした」
意外な意見を伝えられた。
「え、そうなの?」
「今のわたくしたちに戦う力はほとんどありません。ですけど、偵察や敵情監視はいくらでもできるのです。なので、斥候チームを編成して、マサキ様の活動をサポートすべくいろいろと準備していたのです」
「準備? え、ほんと?」
ずいぶんと驚かされる。
「具体的には、長期の偵察活動を可能にする訓練よ。スピリットシャフトに頼らず、森の木々から移動や待機に必要な精気を得る練習。それと、監視のために高い位置での滞空をつづけられるようにする練習」
「そんな訓練してたのか」
「嫌がるような子は外そうって思ってたんだけど、マサキの助けになるからって言ったら拒む子は少なかったわ。断った子も、糸作りとかのほうが得意だからそっちで役に立ちたいって申し出だったの」
事実上、全員が彼の活動サポートのために働きたいと言ってくれたようだ。それぞれが得意な形でこれからの活動に参加したいという意志の表れである。
「嬉しいよ。でも、危険なのは承知してるのかな?」
「もちろん想定しての提案よ」
彼女たちは空の主役ともいえるが絶対の強者ではない。
「支庁はもう気にしなくていいけど、王国の飛行タイプ装鎧戦士が健在。こいつが一番の問題になる。んで、飛びトカゲ型メタル進化種の発生もある。こっちは不確定要素」
「理解してるわ。たぶん、王国は偵察とかに飛行タイプを多用してくると思ってるの。教団の有り様を見て、連絡用以外の用途で飛ばせば籠絡されると思ってるはず」
「そこまで理解してるんなら俺から言うことはないが、うーん」
そこまで大規模にとなると躊躇いが先に立つ。
「承認して。わたしたちも、いえ、わたしたちこそ当事者なの。それなのに、戦えるのはマサキたちだけっていうのは申し訳ないやら情けないやらって思いがあるわ。せめて、できることはやらせてほしいの」
「そうだな、すまない。傲慢だった。全部自分でやればいいってのは、君たちに後ろめたさしか感じさせない身勝手な行動だったな。ごめん」
「謝らないで。ただ、協力させて」
正輝は皆の心意気に覇気が湧いてくる思いだった。
次回『妖精種決起(4)』 「お、おう、十分だと思う」




